バリウム検査での異常
バリウム検査での異常
胃バリウム検査は、胃の位置や形、伸展性、粘膜の凹凸などを見るために行う検査です。胃はそのままだとX線を透過してしまい写すことができないので、X線を通さないバリウム(造影剤)を飲んでから撮影します。
バリウム検査には立位充盈(じゅうえい)法と二重造影法、圧迫法という撮影方法があり、一般的な検診で行われるのは二重造影法、圧迫法です。これは発泡剤を飲んで胃を空気で膨らませた後に、体を回転させて胃の壁全体をバリウムでコーティングし、空気とバリウムのコントラストを用いて診断する方法です。バリウム検査の最大の利点は安価に行うことができる点と、検診車などで移動すると場所を選ばずに検査できる点で、区などの地方自治体や、会社で行うがん検診として、歴史ある方法として広く普及しています。
胃前庭部の粘膜表面には胃小区と呼ばれる顆粒状〜網目状の構造が見られますが、ピロリ菌感染による慢性胃炎があると胃小区が粗大化する傾向にあります。またピロリ菌の感染に伴う炎症により、胃体部の粘膜ヒダが太まったり、萎縮性胃炎が進むと反対に胃の粘膜面がのっぺりしたりすることから、ピロリ菌感染が疑われることもあります。
胃がんにも早期胃がんと進行胃がんがあり、その形態も隆起型から陥凹型まで様々です。胃バリウム検査でも、手術が必要な進行胃がんであれば内視鏡と同等の検出力があると考えられますが、早期胃がんは粘膜表面の微細な変化のみを示す場合が多く、バリウム検査で検出することは容易ではありません。
胃ポリープは隆起型の病変のため、検出することは容易です。しかし、胃カメラ検査で直接的に胃ポリープを観察するのとは違い、バリウム検査は病変を間接的に捉えるだけなので、そこにポリープがあるということは分かっても、それが良性のものか悪性のものか、といった細かいことは分かりません。
特に近年はピロリ菌陰性の胃にできる腺窩上皮型胃がんや、胃底腺型胃がんと呼ばれるポリープと非常に似た形態を示す胃がんが注目を浴びており、これは胃カメラでなければ判別することは不可能です。
胃ポリープ同様に隆起性の病変ですが、病変の主体は粘膜深層〜粘膜下にあるため、表面が正常粘膜で覆われていて、立ち上がりがなだらかです。この立ち上がり部分の所見を「bridging fold」と呼び、粘膜下腫瘍特有のバリウム所見として知られています。
潰瘍性病変は治癒過程で周りの粘膜を引き込みながら傷を修復するため、粘膜ヒダのひきつれを伴う陥凹性病変としてバリウムでは描出されます。ただし、早期胃がんで最も多い肉眼形態は0-IIc型という平坦陥凹型の腫瘍であることや、進行胃がんで最も多い肉眼形態もBorrmann2型と呼ばれる中心に潰瘍形成を伴うものであることから、これらの悪性の潰瘍と良性の潰瘍は胃カメラでしっかり区別する必要があります。
胃カメラ検査は直接胃の内部を観察しますが、バリウム検査はバリウムを飲んだ後にレントゲンを使用して、病変を間接的に観察する方法です。かつては胃がん検診の主体はバリウム検査でしたが、これは1950年代から行われていた手法で、その精度は胃カメラ検査に劣ると言わざるを得ません。
日本と似た環境にある韓国で行われた、25万人を対象とした大規模な調査結果によると、5年間に1度でも胃カメラ検診を受けた人は、胃がん死亡率が47%減少したのに対して、バリウム検査による胃がん死亡率の減少はわずか2%にとどまったと報告されています。
胃カメラ検査では、胃の粘膜の微細な変化も捉え、ごく早期の段階からがんを発見することができますし、バリウムが苦手とする食道や十二指腸の病変なども同時に見つけることが可能です。我々、医療従事者のほとんどはバリウムではなく胃カメラ検査を選択しているのが実情です。
胃バリウム検査で異常を指摘された場合、精密検査として「胃カメラ検査を受ける」の一択です。通常はバリウム検査でどのような異常が見られたか?という報告書がお手元に届いているかと思いますので、内視鏡検査結果と照らし合わせるためにも、検査結果をお持ちの場合は受診時に必ずお持ちください。
バリウムによる胃がん検診の基礎となる二重造影法を確立したのは、日本人の白壁先生です。私の父が昔、白壁先生から胃バリウム検査を学んだと言いますから、かなり昔の話です。当時は胃カメラが現在ほど発達していなかったため、胃バリウム検査が熱心に研究されていたようです。
しかし、胃カメラの発達と共に、胃バリウム検査が新しく学ばれる機会は減少し、当時の医師も高齢化してしまいました。日本でも遅まきながら胃カメラ検診の割合は増えつつあるものの、1950年代からの名残で、残念ながら未だに広くバリウム検診が行われてい流のが実情です。
結論から言うと、鎮静剤(麻酔)を用いた胃カメラが最も楽に受けられます。バリウム検査では、バリウムの味や、発泡剤で胃が膨れる感じやゲップが止まらなかったり、検査台で回転したりと、特有のつらさがあります。
胃カメラは、内視鏡が挿入されている間の違和感や嘔吐反射をつらいと感じる方が多いですが、これは鎮静剤を使用することで緩和することが可能です。また、バリウムで「要精密検査」となった場合は結局、胃カメラ検査を受けなければならないので、最初から胃カメラで検査を受けることで二度手間にならないメリットも大きいです。
胃がん検診として国が推奨しているのは、毎年のバリウム検査、もしくは2年に1回の胃カメラ検査です。胃カメラ検査の方が精度が高いため、より少ない頻度でも胃がんの早期発見が期待できる、というわけです。
従って、胃カメラ検査を受けている場合はバリウム検査は受ける必要がありません。実際私自身も胃カメラ検査を定期的に受けているため、バリウム検査は受けたことがありません。
バリウム検査は一定の割合で合併症があります。最も多いのは検査後の便秘です。バリウムをうまく排泄できずに体内に残ると、腸の中で固まって腸閉塞を起こしたり、腸に穴が開いたりしてしまう合併症を引き起こす場合もあります(バリウム検査後に下剤を渡されるのはこのためです)。
妊娠中または妊娠の可能性のある方は胎児への被曝の影響のリスクがあり、バリウム検査は受けられません。また、過去に胃の手術を受けられたことがある方は胃にバリウムがためられないことや、術式によってはバリウムが本来流れない場所に流れ合併症のリスクがあり、検査が受けられません。
その他、検査薬に対してアレルギーのある方、高度便秘症の方などもバリウム検査には適していません。
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