逆流性食道炎・バレット食道
逆流性食道炎・バレット食道
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流して食道に炎症を引き起こす病気です。主な症状には胸焼けや呑酸(酸っぱいものが込み上げてくる)がありますが、非典型症状も多く、どの科を受診すべきか迷うことも少なくありません。思い当たる症状がある方、または他科で原因が特定できない方は、消化器内科を受診し、胃カメラ検査による診断をお勧めします。
逆流性食道炎は、体型や生活習慣によって発症しやすくなります。特にリスクが高いのは、以下のような方々です。
逆流性食道炎の原因は、主に次の4つの要因に分けられます。
逆流性食道炎の最大の要因は肥満です。肥満により腹圧が上昇すると、胃の内容物が食道へ逆流しやすくなります。肥満以外にも、妊娠中や、締め付けるような衣類、重いものを持ち上げる動作なども腹圧が高くなりやすく、胃酸逆流の生じる原因となります。
通常は胃と食道の間にある筋肉が逆流を防止するように働きますが、この筋肉が弛緩すると逆流が起こります。肥満や姿勢の悪さなどによって筋肉が緩みっぱなしになる「食道裂孔ヘルニア」と、アルコールや高脂肪食などの影響で一時的に緩む「一過性LES弛緩」とがあります。
食道や胃の動きが低下すると、食べ物や胃酸が停滞し(クリアランス能の低下)、逆流性食道炎を引き起こします。
辛い食べ物、脂っこい食べ物などの食習慣やストレスなどの生活因子が胃酸過多状態を自ら引き起こし、逆流した際の粘膜へのダメージが強く出ます。
胸焼けや呑酸症状(酸っぱいものが込み上げてくる症状)の典型症状に加え、飲み込む際の違和感、のどに何かが詰まったような感覚、慢性的に続く咳、胸からみぞおちにかけての痛みなど、多岐にわたる症状が見られます。そのため、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科のどこを受診すべきか迷う方も少なくありません。
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)により炎症の程度を把握することが可能です。ロサンゼルス分類と呼ばれる内視鏡的重症度分類を用いて粘膜障害の程度を評価します。胃カメラでは同時にのどの赤みや腫れの有無、胃内容物の性状の確認もあわせて評価し、それぞれの病態に応じた治療の選択肢を提示することが可能です。
根本的には生活習慣の改善が必要となりますが、一時的な対処方法としては薬物療法が主体となります。
プロトンポンプ阻害薬(PPI) またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる、胃酸の分泌を抑える薬が第一選択薬となります。軽症の場合は症状があるときだけ使用する「オンデマンド療法」を、重症の場合は症状の有無にかかわらず毎日内服する維持療法を行うのが一般的です。非常に効果的な薬ですが、長期間の使用には副作用のリスクが伴います。
胃酸以外の胃の内容物が逆流して起こるタイプの逆流性食道炎の治療には、逆流そのものを抑制するタイプの薬が有効です。制酸薬と組み合わせて処方するケースが多いです。酸分泌抑制薬単独で用いる場合の3割程度効果が増すといった感覚です。
のどの違和感が強く出るタイプや、口の中に苦いものが込み上げてくるようなタイプの逆流性食道炎の治療には、漢方薬を併用するケースもあります。
胃酸による攻撃因子と食道側の防御因子とのバランスが崩れることも症状が出る1つの要因です。胃酸を抑える薬だけでバランスがとりきれない場合は、防御因子を補強してあげることにより症状を抑えます。特に背中まで痛みが響くような強い症状がある方には、有効なケースがあります。
上記の治療法で手を尽くしても症状が取りきれない難治の患者様に関しましては、特殊検査が可能な専門施設へご紹介する場合があります。
逆流性食道炎の治療には、生活習慣の改善が欠かせません。最も有効だとされているのは適正な体重管理です。肥満の人が体重10%分の減量をすると、なんと約65%の方の症状が完全に消失することが報告されています。
また、症状が完全には消えない場合でも、症状の軽減を実感する方を含めると、減量の有効性は約80%にも達するという研究結果が出ています。また、診察時には必要に応じて食事内容や生活習慣のアドバイス資料の提供も行っております。
ヨーグルトや乳製品は胃や粘膜に優しいというイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、逆流性食道炎に対して有効であるとは言えません。
逆流性食道炎とストレスには密接な関係があります。ストレスにより食道が知覚過敏状態に陥ると、健康な状態では感じないレベルの不快感や痛みが何倍にも強く感じられることがあります。
はい、近年は若年の逆流性食道炎もとても多いです。デスクワークやスマホの使用による姿勢の悪化や、ストレス社会の影響が考えられます。また、ピロリ菌感染率の低下に伴い、胃酸分泌そのものが増えている可能性も指摘されています。
軽症であれば市販薬でも症状が改善するケースはあります。H2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)と呼ばれる薬や、炭酸水素ナトリウム・沈降炭酸カルシウムなどの制酸薬の成分を含むものが一般的に用いられます。
バレット食道は、逆流性食道炎が慢性的に続くことで、食道の細胞が胃に近いタイプの細胞に置き換わった状態を指します。通常、食道内に胃酸は存在しませんが、胃酸が繰り返し逆流する状態が続くと、体は食道を胃酸から守るために反応性に細胞を置き換えます。
このようにして環境に適応する変化は、一見よいことに思えるかもしれませんが、置き換わった細胞は不安定であり、「バレット食道がん」と呼ばれる食道がんへのリスクを高めます。
バレット食道は逆流性食道炎の延長線上にある状態です。よって、バレット食道になりやすい人の特徴は、逆流性食道炎の背景にある生活習慣や食習慣と同様と言えます。中でもバレット食道のがん化のリスクとして特に関連が深いのは、肥満と喫煙です。
バレット食道自体には特有の症状はありませんが、この状態は逆流性食道炎が慢性化した結果として生じるため、関連する症状が手がかりとなります。代表的な症状として、胸やけや呑酸(酸っぱいものが口の中に逆流してくる症状)などが挙げられます。これらは、胃酸が食道に逆流することで食道粘膜が刺激を受け、炎症が引き起こされることにより生じます。
さらに、ゲップが多く出ることや喉の違和感、慢性的な咳といった症状が見られることもあります。横になって寝ている間に胃酸が逆流することも多く、これらの症状は特に夜間から明け方にかけて悪化しやすく、睡眠の質が低下する一因となります。一部の患者では、声がかすれる、前胸部や背中の痛みや違和感、あるいは食べ物が飲み込みづらい(間違って梅の種を飲み込んだあとのような違和感、という意味から「梅核気」と呼ばれることもあります)といった症状を訴える場合もあります。これらの症状がある場合、バレット食道やその原因となる逆流性食道炎(胃食道逆流症)が進行している可能性があります。
さらに注意すべき点として、バレット食道は放置すると食道がん、特に食道腺がんへ進行するリスクがあることが挙げられます。そのため、症状が軽微であっても決して軽視してはいけません。特に、繰り返される胸やけや呑酸などの症状が数週間以上続く場合には、早めに内視鏡検査を受けることが推奨されます。
バレット食道の検査と診断は、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)によって行われます。バレット食道の診断基準は複数存在し、国や施設によって異なりますが、当院では国際的標準化を目指して作成された「プラハ分類」を用いて診断しています。
バレット食道の長さは発がんリスクとも密接に関連しており、バレット食道化した粘膜の長さが2倍になると、発がんリスクは約1.7〜2.9倍に増加するとされています。バレット食道の粘膜長が3cm未満の場合はSSBE(ショート・バレット)、3cm以上の場合はLSBE(ロング・バレット)と呼び、LSBEの場合はより密な経過観察が望まれます。
残念ながら現在、バレット食道に対する保険適用の治療法は存在しません。これは、バレット食道が不可逆的な細胞変化を伴うためです。一般的には、さらなる状態の悪化を防ぐために、逆流性食道炎と同様の生活習慣の指導が行われます。
具体的には、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI) またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの薬物療法が一般的ですが、保険適用外の治療法としては、バレット食道の粘膜部分を内視鏡的に焼き潰す(アルゴンプラズマ凝固やラジオ波などによるバレット食道焼灼)か、切り取る(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)ことで、正常な細胞の再生を促す粘膜置換療法がありますが、現在のところ一般的な治療法ではありません。定期的に内視鏡検査を行い、状態を観察しながら食道腺がん(バレット食道がん)の早期発見・早期治療に努めることが重要です。
特に、食道裂孔ヘルニアや慢性的な逆流性食道炎(胃食道逆流症)を合併している場合は、これらの疾患を適切に管理することが重要です。健康的な生活を維持し、バレット食道やその関連疾患の進行を防ぐため、患者様お一人おひとりの症状やリスクに応じた治療や検査を受けることで、症状の緩和だけでなく、がんの発症の予防を目指します。もしこれらの症状や心配がある場合は、早めに医療機関を受診し、専門医の指導を受けるようにしましょう。
逆流性食道炎は、一時的に炎症を引き起こした状態で、適切な治療により根本的に改善することが可能です。一方、バレット食道は逆流性食道炎が長期にわたって続くことによって生じる不可逆性の細胞変化であり、生活習慣の是正や薬物療法では根治させることができません。
バレット食道は男女ともに見られますが、バレット食道がんへ進行しやすいのは圧倒的に男性です。バレット食道がんの男女比は9:1で男性に偏っています。
いいえ、バレット食道は自然には治らず、薬物治療でも根治させることはできません。不可逆的な細胞変化が特徴であり、1年に1回、胃カメラでの経過観察を継続することが最も重要です。
はい、バレット食道はがんの発生母地となります。LSBE(ロングバレット)では年間1.2%程度のがん化率が報告されています。ただし、バレット食道の長さが1cm未満のUSSBE(ウルトラ・ショート・バレット)は健常者の3割程度に見られるとされますが、USSBEのがん化率は年間0.007%程度と非常に低く、過度に心配する必要はありません。
食事内容にも注意が必要ですが、最も重要なのは適正な体重管理です。BMI22程度を目標にした減量しましょう。
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