鎮静剤(麻酔)を使用し眠った状態での内視鏡検査
鎮静剤(麻酔)を使用し眠った状態での内視鏡検査
胃カメラ・大腸カメラがつらいと思われている一番大きな要因は、検査中に起こる嘔吐反射や痛みによるものです。鎮静剤を適切に使用することで、内視鏡検査中の不快感を軽減させ、苦痛を感じることのない検査を行うことが可能になります。
皆が鎮静剤を使用した検査を受けていれば、ここまで内視鏡検査に対する負のイメージは蔓延していないのではないか、と思いますが、市区町村などで行われる胃がん検診の内視鏡検査では、管理体制の問題から鎮静剤の使用を一律に禁じている自治体も多く、それを知らずに検査を受けてしまった方が、検査に対してトラウマ化してしまうことも少なくありません。
私自身も鎮静剤を使用せずに胃カメラを受けたことが何度もありますが、毎回涙を流してしまいます。
また、中には「鎮静剤を使用しなくても自分は我慢できるから大丈夫」という方もいらっしゃいますが、全く嘔吐反射がなければいいのですが、検査中にオエっとしてしまったり、緊張で力が入ったりしてしまうと、詳細な観察ができなくなり、病変の見逃しにもつながりかねません。
そのため、鎮静剤を使用してリラックスした状態で検査を受けることは、単に検査を楽に受けるだけではなく、検査の質そのものを向上させる上でも重要な役割を果たします。
胃カメラ検査では鎮静剤の使用によるメリットが特に大きいです。鎮静剤を使用することで、検査中の苦痛を大幅に軽減し、より高精度の診断が可能になります。特に下記のような方には鎮静剤の使用をお勧めします。
大腸カメラ検査では、鎮静剤を使用しなくても全く苦痛を感じない方もいますが、一定の違和感は避けられません。体型や癒着の有無などにより、鎮静剤の有無が検査に大きな違いをもたらす場合もあります。特に下記のような方には鎮静剤の使用をお勧めします。
胃カメラ・大腸カメラの検査時に使う薬剤は主に、「鎮静剤」と「鎮痛剤」の2種類に分けられます。「鎮静剤」は、ウトウトと眠たくなる作用をもつ薬で、「鎮痛剤」は痛みや嘔吐反射を抑える薬です。内視鏡検査時は、大掛かりな手術に用いられるほど強い麻酔は必要なく、これら2種類を組み合わせることにより、苦痛を感じることなく検査を受けることが可能です。
全国的に最も使用頻度の高い鎮静剤です。ベンゾジアゼピン系と呼ばれる鎮静剤の一種で、検査の間の短時間のみ作用する睡眠剤のようなイメージです。薬剤を注入した際の血管痛がなく、速効性があります。閉塞隅角緑内障や重症筋無力症の方は病状を悪化させる恐れがあるため、使用できません。
新しい「超短時間作用型」のベンゾジアゼピン系の鎮静剤です。ミダゾラムよりも鎮静剤からの覚醒が早いため、検査後に仕事が控えているなど、しっかり寝ることよりも目覚めの良さを重視したい方に向いている薬剤です。安全に使用できることが論文でも報告されており、今後内視鏡検査における鎮静剤としての保険収載を目指した動きが進んでいます。閉塞隅角緑内障や重症筋無力症の方は病状を悪化させる恐れがあるため、使用できません。
ペチジンは鎮痛効果を目的として使用される薬剤です。痛みを軽減し、嘔吐反射を抑制する効果があります。鎮静効果はないため、単独で使用しても眠気は出ません。ミダゾラムやレミマゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬剤と併用するケースが多いですが、大腸カメラの際に、一緒に画面を確認しながら検査を受けたい方は、ペチジンを単独で使用して検査を受けることも可能です。
ペチジンよりも強力な鎮鎮痛効果をもつ薬剤です。効果が強い分、嘔気などの副作用の発現率もやや高いため、通常はペチジンが用いられます。
ミダゾラムやレミマゾラムなどのベンゾジアゼピン系の薬剤で鎮静効果が得られにくい方に使用する薬です。下記の項目に当てはまる方は、ベンゾジアゼピン系の鎮静剤が効きにくい傾向にあります。
薬剤耐性を形成(身体が薬の成分に対して慣れを起こしてしまっている状態)しており、ベンゾジアゼピン系の鎮静剤が効きづらくなります。
アルコールとベンゾジアゼピン系の鎮静剤は脳内に作用する経路が同じため、交叉耐性があります。そのため、常習的な飲酒習慣のある方はベンゾジアゼピン系の鎮静剤の効果が減弱する傾向にあります。
ベンゾジアゼピン系の鎮静剤しか用意していない医療機関では、これで効果不十分の場合、次の手立てがないため、「鎮静剤を使用してもつらかった」ということが起こりえます。このようなことがないよう、ベンゾジアゼピン系の鎮静剤で効果不十分な方に対してはプロポフォールを用いた麻酔も可能です。プロポフォールは欧米では内視鏡検査時の鎮静剤として一般的に用いられ、ガイドラインも確立しています。
ベンゾジアゼピン系薬剤と比較すると、薬剤注入から効果の発現が早く、目覚めも早く身体に残りにくいため、非常によい薬剤です。ただし、薬剤を安全に使える調整幅が狭いため、熟練した医師が麻酔を扱う必要があります。
胃カメラ・大腸カメラで用いる鎮静剤は基本的に静脈麻酔として投与します。点滴と同様に薬剤を直接血管に注入するため、迅速に鎮静効果を発揮し、検査中の不快感を大幅に軽減します。静脈麻酔の特徴として、その即効性と検査中の安定した効果、検査後の回復の速さが挙げられます。
鎮静剤の費用は非常に安価です。使用する薬剤により多少の増減はありますが、例えば最も使用頻度の高い鎮静剤であるミダゾラムの薬価は約100円で、健康保険を適用した場合、患者様の実質的な負担は1割負担で10円、3割負担で30円程度となります。鎮痛剤であるペチジンを加えた場合でも1割負担の方で45円程度、3割負担の方で130円程度です。
わずかな追加費用で、検査中の不快感を大幅に軽減でき、検査の精度も向上するため、多くの方にとっては鎮静剤を使用するメリットの方が大きいと考えます。
鎮静剤使用時の最も多い副作用は呼吸抑制です。特に夜間いびきをかく方や、睡眠時無呼吸症候群の方などは、普段寝ている時と同様に一時的な呼吸停止が起こる場合があります。検査中は血中酸素飽和度(SpO2)のモニタリングを実施し、必要に応じて酸素投与を行う場合があります。
特に65歳以上の方は鎮静剤投与に伴い一時的に血圧が低下しやすい傾向にあります。検査前後での血圧をモニタリングし、必要に応じて点滴などを行う場合があります。
検査後は十分な休憩を取っていただいてからお帰りいただきますが、人によっては眠気やだるさが少し長引く方がいらっしゃいます。頭はしっかりしているつもりでも、急な眠気やふらつきが出る場合がありますので、検査当日に車・バイク・自転車の運転の予定のある方は鎮静剤の使用はできません。
鎮静剤ではなく、主に鎮痛剤を使用した場合に起こることのある副作用です。頭痛持ちの方や、低体重の女性で起こりやすい副作用ですので、鎮痛剤を適宜減量したり、別の薬剤に切り替えたりすることで、副作用の出現を未然に防ぎます。頭痛や嘔気が出てしまった場合は、水分の摂取を多めに行い、薬剤の体外への排泄を促します。
鎮静剤に限らず、すべての薬剤はアレルギー出現の可能性がゼロではありません。アレルギー症状が出た場合は速やかに対処します。
鎮静剤を使用した検査当日は、車・バイク・自転車の運転はできません。道路交通法第 66 条第1項に「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」と記載され、死傷事故を起こした場合、最大20年以下の懲役刑を課される場合があります。
また、事前に注意を受けていたにもかかわらず引き起こした事故には保険がおりない場合があるので、多額の出費を強いられる場合もあります。当院ではいかなる理由があっても、検査当日に車・バイク・自転車の運転のご予定がある方への鎮静剤の使用は行いません。ご了承ください。
TOP