バレット食道
バレット食道
健康診断や人間ドックで「バレット食道」の疑いを指摘され、不安を感じていませんか?日本橋・八重洲・神田エリアにお勤めの忙しいビジネスパーソンの方々から、よくご相談をいただきます。インターネット上には「食道がんになりやすい」という情報もありますが、日本人に多いタイプ(SSBE/USSBE)であれば、過度に恐れる必要はありません。
この記事では、日本消化器内視鏡学会専門医が、バレット食道の正体と「本当に注意すべきリスク」、そして当院での診断・経過観察について、最新の医学論文に基づき解説します。
バレット食道とは、本来「扁平上皮(へんぺいじょうひ)」という皮膚のように丈夫な粘膜で覆われているはずの食道の一部が、胃の粘膜に似た「円柱上皮(えんちゅうじょうひ)」に置き換わってしまった状態のことです。
なぜ、本来あるべき食道の粘膜が、胃の粘膜に置き換わってしまうのでしょうか? それは、体が胃酸という「攻撃」から身を守ろうとする、防御反応なのです。
食道と胃は、隣り合う臓器でありながら、その役割の違いから全く異なる「内張り(粘膜)」で守られています。
口から食べたものを胃へ運ぶ土管のような役割を持つ食道は、固形物が通過する際の摩擦や衝撃に耐えられるよう、皮膚のように何層にも重なった丈夫な構造(扁平上皮)をしています。しかし、この物理的に丈夫な食道の粘膜には、「酸には弱い」という弱点があります。
一方で、食べたものをドロドロに溶かす「消化の場」である胃は、強力な胃酸が常に分泌されています。そのため、胃の壁は自らが溶けてしまわないよう、粘液を分泌する「酸に強い」特殊な構造(円柱上皮)で覆われています。
通常、食道内に胃酸が存在することはありません。しかし、逆流性食道炎 などで胃酸が繰り返し逆流する状態が続くと、酸に弱い食道の粘膜は炎症を起こし、ただれてしまいます。
すると、体は「ここは酸が頻繁に来る場所だ。なら、酸に強い粘膜に変えて守らなければ!」と判断します。
こうして、傷ついた食道の粘膜が、修復される過程で「酸に強い胃の粘膜」へと反応性に置き換わっていきます。これがバレット食道の正体です。
このように環境に適応して変化することは、体を守るための自然な反応であり、一見よいことに思えるかもしれません。
しかし、本来あるべき場所ではないところに作られた細胞(置き換わった細胞)は、非常に不安定な状態にあります。 この不安定な細胞が長期間居座ることで、遺伝子のミスが起こりやすくなり、結果として「バレット食道がん(食道腺がん)」と呼ばれる食道がんのリスクを高めてしまいます。
インターネットでバレット食道について検索すると、「食道がんの前癌病変」といった怖い言葉が並んでおり、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、日本人のバレット食道において、過度な心配は不要です。確かに、バレット食道ががんの発生母地となることは事実ですが、がん化のリスクが高いのは特定のタイプに限られています。「がんのリスク」という点だけで言えば、日本人が生涯で患う確率は、バレット食道がんよりも、大腸がんや胃がんの方がよほど高いのが現実です。正しく恐れ、適切なタイミングで検査を行っていれば、決して怖い病気ではありません。その根拠を以下に詳しく解説します。
バレット食道のリスクを正しく理解するためには、その「長さ」による分類を知ることが重要です。
バレット食道は、その「長さ」によってリスクが異なります。バレット食道化した粘膜の長さが2倍になると、発がんリスクは約1.7~2.9倍に増加するとされています。バレット食道の粘膜長が3cm未満の場合はSSBE(ショート・バレット)、3cm以上の場合はLSBE(ロング・バレット)と呼び、LSBEの場合はより密な経過観察が望まれます。以下の表をご覧ください。
| タイプ | バレット長 | 日本での頻度 | 年間のがん化率 | 推奨される対応 |
|---|---|---|---|---|
| LSBE ロング・バレット |
3cm以上 | 極めて稀 (1%以下) |
約 1.2% (要注意) |
厳重な管理 専門医による定期的かつ精密な内視鏡検査が必須 |
| SSBE ショート・バレット |
〜3cm | 一般的 | 約 0.04% (非常に低い) |
年1回の定期検査 変化がないかチェックすれば安心 |
| USSBE ウルトラ・ショート・バレット |
1cm未満 | 非常に多い (3人に1人) |
0.007% | ほとんど心配なし 人間ドックや健診のついでに経過を見る程度で十分 |
※がん化率の出典:LSBEは欧米および国内の過去データ、SSBE/USSBEはFukuda S, et al. Dig Endosc. 2022(日本人約9,000人の追跡データ)に基づく。
バレット食道の診断、および「SSBEかLSBEか」の判定には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)が必須です。バレット食道の診断基準は複数存在し、国や施設によって異なりますが、当院では国際的標準化を目指して作成された「プラハ分類」を用いて診断しています。当院は、日本橋・人形町エリアはもちろん、東京駅八重洲エリア・神田エリアからも多くの患者様にご来院いただいています。
バレット食道や早期食道がんの発見には、通常の内視鏡(白色光)だけでは不十分な場合があります。 当院ではフジフイルム社の最新レーザー内視鏡システムを導入し、BLI / LCIという高度な観察モードを駆使しています(オリンパス社の「NBI(狭帯域光観察)」として知られる特殊光検査に相当)。
当院では、これらの特殊光技術と拡大観察機能を組み合わせることで、バレット食道の範囲をミリ単位で正確に計測し、わずかながんの芽(異形成)も早期に発見できる体制を整えています。
一度変化した粘膜(バレット食道)を、薬だけで完全に元の食道粘膜に戻すことは困難です。 そのため、治療の目標は「①範囲の拡大を防ぐこと」と「②がん化を未然に防ぐこと」の2点になります。
当院では、患者様の「症状の有無」と「粘膜の異型度(悪い細胞が混じっているか)」に基づいて、最適な治療プランをご提案します。
まずはバレット食道の原因である「胃酸逆流」をどう抑えるか、という基本ケアです。
非異型バレット食道(がんの芽がない)場合、基本的には経過観察です。ただし、若年でバレット食道が長い(LSBE)方などは、例外的に予防的治療 として、ラジオ波やアルゴンプラズマ(APC)を用いた内視鏡的粘膜焼灼法(高周波で粘膜の表面だけを焼く治療)を検討する場合があります。
薬物療法を行う場合でも、ベースとなるのは日々の生活習慣です。胃酸の逆流を防ぎ、食道への負担を減らすために以下のポイントを意識しましょう。
特に食道裂孔ヘルニアがある方は注意が必要です。
内視鏡検査(生検)の結果、将来がんになるリスクがある「異型(いけい)」や、「バレット食道がん」が見つかった場合は、進行度に応じて専門的な治療(内視鏡治療や外科治療)が必要になります。詳細な治療法については、以下の項目で詳しく解説します。
残念ながら現在、バレット食道に対する保険適用の治療法は存在しません。これは、バレット食道が不可逆的な細胞変化を伴うためです。保険適用外の治療法としては、バレット食道の粘膜部分を内視鏡的に焼き潰す(アルゴンプラズマ凝固やラジオ波などによるバレット食道焼
灼)か、切り取る(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)ことで、正常な細胞の再生を促す粘膜置換療法がありますが、現在のところ一般的な治療法ではありません。定期的に内視鏡検査を行い、状態を観察しながら食道腺がん(バレット食道がん)の早期発見・早期治療に努めることが重要です。
バレット食道がんは、発見された時の「深さ(深達度)」によって、お腹を切らずに治せるか、外科手術が必要になるかが決まります。 当院で実際に診断・治療方針を決定した2つの症例をご紹介します。

早期に発見できれば、内視鏡を使って病変を剥ぎ取るESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という治療で、胃や食道を残したまま完治が可能です。

がんが粘膜の下の層(粘膜下層)まで深く入り込んでいる場合や、リンパ節への転移が疑われる場合は、内視鏡治療の適応外となり、外科手術や化学放射線療法が必要になります。
バレット食道は、定期的なチェックさえ行っていれば、決して怖い病気ではありません。 日本橋人形町消化器・内視鏡クリニックでは、以下の体制で皆様の健康を守ります。
食道の粘膜が、胃の粘膜(円柱上皮)に置き換わってしまった状態です。 本来、食道は「扁平上皮(へんぺいじょうひ)」という皮膚のような粘膜で覆われていますが、胃酸逆流などの炎症が続くと、防御反応として胃と同じ「円柱上皮(えんちゅうじょうひ)」に変質します。この変化をバレット食道と呼びます。
主な原因は「胃酸の逆流(逆流性食道炎)」による慢性的な炎症です。 胃酸が食道へ繰り返し逆流することで、酸に弱い食道の粘膜が傷つき、酸に強い胃の粘膜へと変化しようとします。 リスク要因として、食生活の欧米化(高脂肪食)、肥満、喫煙、加齢、食道裂孔ヘルニアなどが挙げられます。
バレット食道そのものに特有の症状はありません。 しかし、原因となっている「逆流性食道炎」に伴う以下の症状を感じることが多いです。
食道がん(腺がん)のリスクになりますが、過度な心配は不要です。 バレット食道は「前がん病変」とされますが、日本人に多いショートタイプ(SSBE/USSBE)の発がん率は年間0.007%〜0.04%程度と稀です。 一方で、ロングタイプ(LSBE)は年間1.2%程度のがん化リスクがあるため、ご自身がどのタイプかを内視鏡検査で正確に把握しておくことが重要です。
薬物療法と生活習慣の改善で「進行を防ぐ」ことが基本対策です。 一度変化した粘膜を元に戻す確実な薬はありません。以下の対策でがん化を防ぎます。
症状が強い時は控えることをお勧めします。 カフェイン(コーヒー・緑茶)やアルコールは、胃酸の分泌を増やし、かつ胃と食道のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋)を緩めて逆流を招きやすくします。 絶対に禁止ではありませんが、空腹時を避ける、量を控えるなどの工夫が必要です。
「脂っこいもの」と「酸味の強いもの」に注意してください。
また、「食べてすぐ横にならない(食後2〜3時間は起きている)」ことが最も効果的な予防法です。
はい、悪影響があります。禁煙を強く推奨します。 タバコは逆流防止の筋肉を緩めるだけでなく、食道がんそのものの強力なリスク因子です。バレット食道からの発がんを予防するためにも、禁煙は非常に重要です。
当院では「鎮静剤」を使用し、眠ったまま苦痛なく検査が可能です。 「オエッ」となる反射(嘔吐反射)が不安な方のために、鎮静剤を使った内視鏡検査に対応しています。多くの方が「気づいたら終わっていた」とおっしゃいます。日本橋・東京駅八重洲・神田エリアでお仕事中の方も、ストレスなく受けていただけます。
基本的には「1年に1回」を推奨しています。 バレット食道の長さや状態によりますが、変化が少ないSSBEの方であれば年1回の定期チェックで十分です。 当院のWeb予約システムでは24時間いつでも予約が可能です。
はい、保険適用となります。 症状(胸焼け等)がある場合や、健診で指摘された場合の精密検査は保険診療です。3割負担の方の目安: 約5,000円程度(内視鏡検査のみの場合) ※病理組織検査(生検)を行った場合は、追加で病理診断料等がかかります(プラス4,000円〜)。
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