直腸カルチノイド(直腸神経内分泌腫瘍)
直腸カルチノイド(直腸神経内分泌腫瘍)
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)は、直腸の粘膜深層〜粘膜筋板に発生する比較的まれな腫瘍で、腫瘍が大きくなるとともに粘膜下層以深へと進展していきます。カルチノイド自体は直腸に限らず、胃や十二指腸・小腸・大腸などの消化管や膵臓に発生しますが、日本における大腸カルチノイドの約90%は直腸カルチノイドで、実際に当院で診断されたカルチノイドも全例が直腸に発生したものです(2025年11月現在)。
そもそも「カルチノイド」とはドイツ語で「がんもどき」という意味で、大腸癌などの一般的な悪性腫瘍と比較して生命予後が良好で、低悪性度の腫瘍であるという特徴から、このように呼ばれています。ただし、実際には他の癌腫と同様に深部浸潤や転移を起こす悪性度の高い病変も混在します。「カルチノイド」という名称はさも良性腫瘍であるかの如き誤解を与えかねないとの懸念から、WHOは神経内分泌腫瘍(NET:Neuroendocrine tumor)という名称を用いることを提唱し、さらに細胞増殖指数(Ki-67)を指標にNET G1、NET G2、NEC(神経内分泌細胞癌:Neuroendocrine carcinoma)とに細分類しています。厳密には従来の日本の病理学的診断における「カルチノイド腫瘍」とWHOの「神経内分泌腫瘍(NET)」は似て非なるものですが、臨床の現場においてはほぼ同等のものとして扱われ、「神経内分泌腫瘍(NET)」「カルチノイド」いずれの名称も混在して用いられていることが実情です。このページ内では便宜上、以下「カルチノイド」の表記を用います。
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)は、無症状であるケースが大半で、検診目的、または他の目的で行われた大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)で偶然見つかり診断されることがほとんどです。カルチノイドそのものは稀な腫瘍ではありますが、内視鏡検査の普及や、画質の向上・診断能力の向上に伴い、近年は発見数が増加傾向にあります。
ただし、腫瘍がある程度大きくなると、以下のような症状が出る可能性があります:血便(便に赤い血が混じる、便通異常(便秘・下痢)、腹痛、残便感など。
また、カルチノイドの大半は「非機能性NET」と呼ばれホルモン産生を伴わない病変ですが、ごく稀に「機能性NET」と呼ばれるホルモン産生を伴う病変があり、この場合は(主に消化管カルチノイドの場合は)セロトニンと呼ばれるホルモンの影響で、皮膚の紅潮や下痢、腹痛などの症状が出現する場合もあります。
(診断方法については後述しますが)一般に、単発で腫瘍径が10mm未満、組織型分類NET G1、筋層浸潤なし、かつ画像診断により明らかな転移を認めない直腸カルチノイド症例においては、転移リスクは低いと考えられ、内視鏡的治療の適応となります。内視鏡治療後には、再度、病理組織学的に評価を行い、転移リスクを判定した上で、追加治療の要否を判断します。反対に、これらの条件に当てはまらない病変については、一般的な直腸がんと同様にリンパ節郭清を伴う外科的手術が行われます。
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)の多くは、腫瘍径10mm以下の小病変であるため、大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)でのみ診断可能な場合が多いです。
直腸カルチノイドの内視鏡診断のポイントについては、消化器内科医向け専門誌『臨牀消化器内科』の特集「大腸で見られる粘膜下腫瘍」(33巻12号、2018年10月発行)に解説記事も寄稿しています。
※粘膜下腫瘍(SMT)とは、一般に良性/悪性の非上皮性腫瘍性病変を指し、粘膜深層〜粘膜筋板に発生するカルチノイド腫瘍は厳密には粘膜下腫瘍(SMT)ではなく、「SMT様」の病変(粘膜上皮性腫瘍)ですが、他疾患との鑑別ポイントも含めて、こちらの特集記事で解説を加えています。
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)は、肛門から約8〜9cmの下部直腸にできやすい腫瘍です。内視鏡で見ると、やや黄色みがかった小さな盛り上がりとして観察され、弾力のある硬さを示すことが一般的です(専門的には、「黄色調の弾性硬隆起性病変」と表現します)。さらに腫瘍が大きくなると、頂上部が少しくぼむ「陥凹(delle)」という所見がみられることがあります。
EUS(超音波内視鏡検査)とは内視鏡の先端から特殊な超音波装置を用い、病変の深さ(どの層まで達しているか=深達度)を詳しく調べる検査です。直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)の治療方針を決めるうえで重要になります。直腸カルチノイドは、EUSでははっきりと境界がわかる黒っぽい小さな塊(低エコー腫瘤)として映ることが多く、この病変が「どの層にあるか」がわかると、内視鏡で切除できるのか(粘膜表層〜粘膜下層にとどまる場合)、外科的手術が必要か(より深い筋層以深への浸潤が疑われる場合)の判断に役立ちます。
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)の広がりや、周囲のリンパ節・臓器への転移の有無を確認するために、CTやMRIを行うことがあります。CT(造影CT)では、造影効果が高い腫瘍としてうつることが特徴ですが、腫瘍が非常に小さい場合は、CTの画像上、指摘困難な場合が多いです。MRIは、直腸の壁の層構造や周囲組織との関係、リンパ節の評価に役立ちます(必要に応じて拡散強調画像などを用います)。
直腸カルチノイドが内視鏡以外の画像診断で見つかりにくい理由
CTは連続したスライス(画像の薄切り)で体を撮影していますが、(検査の目的にもよりますが)通常は5mm前後の厚みで画像を作ることが多いです。一方で、直腸カルチノイドの多くは、上述した通り腫瘍径10mm以下の小病変であるため、連続した2スライス以上には映り込まず、CT画像のみでの診断は困難といえます。そのため、直腸カルチノイドの場合においては一般的に内視鏡診断がついた病変について、転移検索を目的として行われることが一般的です。直腸カルチノイドは小さい腫瘍でも転移を起こすことがあるため、転移の有無のチェックが重要です。
特に5 mm以下の小病変においては、生検により腫瘍の視認が困難となったり、病変周囲の線維化が起こりその後の治療に悪影響を及ぼす場合があるため、その肉眼的な形態などから直腸カルチノイドが疑われた場合には、安易な生検は行わず、診断的治療としての一括切除が望ましいです。
組織採取(生検)後は、病理学的な評価を行いますが、神経内分泌マーカー(シナプトフィジン・クロモグラニンA)陽性を確認することに加え、Ki-67指数を用いたグレード分類を行います。また、内視鏡的治療後の場合はこれに加えて、脈管侵襲の有無(血管やリンパ管へ入り込んでいないか:静脈侵襲・リンパ管侵襲)、切除断端の評価(腫瘍部分を残らず取りきれているかどうか)、深達度(どの層まで腫瘍が達していたか)を詳しく確認します。これらの結果を総合して、追加治療の必要性を判断します。
一般に、単発で腫瘍径が10mm未満、組織型分類NET G1、筋層浸潤なし、かつ画像診断により明らかな転移を認めない直腸カルチノイド症例においては、転移リスクは低いと考えられ、内視鏡的治療の適応となります。
ESMR-L/EMR-C
通常の「大腸ポリープ」や「早期大腸がん」は粘膜表層に発生するのに対し、直腸カルチノイドは病変の主座が粘膜深層〜粘膜筋板にあり、粘膜下層浸潤例も多い(一般的に大腸がんは粘膜下層に浸潤した段階で内視鏡的治療適応外となり、外科的治療となる)ため、ポリープ切除と同様の手技では切除断端が陽性となり根治切除ができない場合が多いです。これより、直腸カルチノイドの治療には特殊な手技が用いられるのが一般的で、入院可能な高次医療機関で治療されるケースが多いです。
〜8mm程度までの小病変に対しては、ESMR-L(endoscopic submucosal resection with a ligation device)やEMR-C(endoscopic mucosal resection using a cap;かつてはキャップEMRなどとも呼ばれていた)が用いられます。具体的には、食道静脈瘤結紮術(EVL)用の処置具を用い、デバイス内に病変を吸引したのちに、病変の根元をゴムバンドで結紮し、通電して病変を一括切除するような方法です。
ESD(粘膜下層剥離術)
EVLデバイス内に引き込めないサイズの病変や、生検後の線維化症例などに対しては、早期大腸がんと同様の処置としてESD(粘膜下層剥離術)が行われます。最大径が5mmから10mmまでの直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)に対して保険収載されていますが、実臨床においては、10mm以上の症例でも筋層浸潤のない症例であれば技術的には切除が可能で、生検による病理学的診断がNET G1で明らかな転移を認めない症例に限って、診断的治療としてESDを先行させたのちに、改めて病変全体を病理学的に評価し、追加治療の有無を決定する場合もあります。
多発症例・腫瘍径10mm以上、組織型分類NET G2(またはNEC:神経内分泌細胞癌)、筋層以深への浸潤所見、または画像的に局所のリンパ節転移を疑う病変は高リスク病変と考えられ、一般的には外科的治療が推奨されます。
論文報告によれば、腫瘍径10mm〜20mmでリンパ節転移の頻度は18.5〜30.4%、腫瘍径20mm以上ではリンパ節転移の頻度は58〜76%と非常に高率で、通常の直腸がんと同様、リンパ節郭清を伴う根治的な治療が望ましいでしょう。
内視鏡的治療後の追加切除について
術前診断においては根治が期待できる(内視鏡で取り切れる可能性がある)と判断された場合でも、内視鏡的治療後の詳細な病理組織学的な検討の結果によっては、追加治療が検討されます。具体的には、切除断端陽性例・筋層以深への浸潤所見・NET G2(or NEC)・脈管侵襲(静脈侵襲・リンパ管侵襲)陽性などの所見がみられた場合には、直腸がんに準じて、リンパ節郭清を伴う直腸切除術が考慮されます。
この種々の要件の中でも、最も取り扱いが悩ましいのが「脈管侵襲の有無(血管やリンパ管へ入り込んでいないか:静脈侵襲・リンパ管侵襲)」についてです。病理評価において通常のHE染色に加え、免疫染色・特殊染色(D2-40やEVG染色)を行なって詳細に評価すると、検出感度が上がり、陽性率が高く(22〜57%)なってしまいます。つまり、HE染色のみでは「リスク因子なし(追加治療不要)」と評価される一方、免疫染色等を追加すると「脈管侵襲あり(追加手術を検討)」と判定されるケースが生じ得ます。
一方で、国立がんセンターの報告によれば、脈管侵襲以外にリスク因子がなく、追加治療を行わず経過観察とした症例で転移・再発を認めなかったとされており、手術の絶対的な条件にはならない、としています。ただし、他施設の報告では内視鏡的治療後に20年以上経過してから再発・転移した症例の報告もあり、リスクはゼロではないことも確かです。また、再発した場合には有効な根治治療法がないことも十分に念頭に置かなければなりません。
特に下部直腸の病変では、術式によっては排便障害や性機能障害などQOLを著しく低下させる不可逆的な影響が残る可能性もあります。そのため、追加手術のメリット(再発・転移リスクの低減)と手術に伴う合併症や生活への影響を比較検討し、「手術をしなくても再発しないかもしれない」ことに期待をかけて慎重な経過観察を行うのか、「再発・転移のリスクに怯えずに生活する」ことを重視してリスクを納得した上で手術を受けるのかは、主治医による説明を踏まえて、ご本人の価値観やご家族のご意向とともに、慎重に方針を決めていくことが大切と私は考えます。
東京都中央区に位置する当院では、日本橋・人形町・神田エリアを中心に幅広いエリアから、直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)を含む消化器内科・消化器内視鏡分野の疾患に対して、安心して受診いただける体制を整えています。
直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)は比較的稀な疾患ではありますが、若年者の発症も多い疾患であることより、治療経験豊富な医療機関との連携が必須と考えております。実際、当院で診断された直腸カルチノイド(神経内分泌腫瘍)症例においては、がん研有明病院(下部消化管内科)・東京女子医科大学(消化器内視鏡科 野中康一教授)・NTT東日本関東病院(内視鏡部・消化管内科部長 大圃研先生)などへの紹介実績があります。
直腸の粘膜深層〜粘膜筋板から発生する神経内分泌細胞由来の腫瘍です。低悪性度の場合が多い一方、条件によってはリンパ節や肝臓に転移することがあります。
多くは無症状です。健診や別目的で行われた大腸内視鏡で偶然発見されることが大半です。
消化器内科・内視鏡内科が適切です。内視鏡や病理検査、必要に応じてEUS・CT・MRIで広がりを総合評価します。
医学的には神経内分泌腫瘍(NET)で、いわゆる大腸がん・直腸がんとは異なりますが、悪性の性質を持ち得ます。大きさ・深さ・脈管侵襲・Ki-67などを総合して再発や転移のリスクを判断します。
大腸内視鏡で観察し生検で病理診断します。深達度はEUS、転移の有無はCT/MRIで確認し、治療方針を決めます。
腫瘍の増殖の勢いを示す指標です。Ki-67によりG1/G2/NECなどのグレード分類を行い、治療やフォロー間隔の目安にします。
まれですが可能性があります。腫瘍径、筋層浸潤、脈管侵襲などの要素で転移リスクは変わるため、画像評価と病理結果を合わせて判断します。
小さく(目安10mm未満)筋層浸潤や転移が疑われなければ内視鏡的切除が検討されます。切除後は病理で断端や脈管侵襲を確認します。
大きい(10mm以上)、筋層以深の浸潤、リンパ節転移疑い、断端陽性や脈管侵襲陽性では直腸切除+リンパ節郭清が考慮されます。
深達度の判断に有用です。病変が筋層へ及ぶか否かで内視鏡切除か手術かの選択が変わります。
強い造影効果が手がかりですが、小病変は指摘困難なことがあります。thin slice再構成やEUS・内視鏡と組み合わせて総合評価します。
リスクにより異なります。腫瘍径・深達度・断端・脈管侵襲・グレードを踏まえ、内視鏡と画像検査で計画的にフォローします。
病理結果とリスクに応じて異なりますが、転移リスクを考慮して〜1年ごとに内視鏡検査やCT検査を行います。
可能です。鎮静下の大腸内視鏡・処置に対応し、苦痛や不安の軽減を図ります。
病変や全身状態により日帰りで可能な場合があります。出血・穿孔リスクに応じて入院観察を提案することもあります。当院では直腸カルチノイドの治療は基本的に提携の治療経験豊富な高次医療機関へ紹介しています。
術式により排便障害などQOLに影響する可能性があります。手術適応が明らかな症例では手術が推奨され、選択の余地はほとんどありませんが、内視鏡治療後でリスク因子が「脈管侵襲陽性のみ」の場合は、再発リスクと手術によるQOLへの影響を比較し、主治医やご家族と十分に相談して方針を決めます。
受けられます。画像・病理結果・紹介状をご持参いただくと、治療選択や方針の整理がスムーズです。セカンドオピニオン外来は自費診療となります。
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