胃粘膜下腫瘍
胃粘膜下腫瘍
胃粘膜下腫瘍(胃SMT)とは、胃の内側を覆っている粘膜の下(粘膜下)に発生する腫瘍の総称です。その種類は良性のものから悪性のものまで多岐にわたります。中には真の腫瘍とは呼べない病変も含まれることから、近年では(胃上皮下病変:胃SEL)という名称を用いるような風潮がありますが、まだ十分には普及しておらず、医療現場においては従来通り非腫瘍であっても「胃粘膜下腫瘍(胃SMT)」の用語を用いているケースが多いです。
腫瘍が小さいうちは特有の症状はなく、胃カメラやバリウムの検査で偶然に見つかることがほとんどです。
胃粘膜下腫瘍は様々な病変を包括した総称です。2cm未満の症状のない胃粘膜下腫瘍は年に1~2回の胃カメラによる経過観察が推奨され、経過を追っていく中で大きくなってくるものや、形状の変化を伴うものは悪性病変の可能性があり、精密検査が必要になります(2cm未満の胃粘膜下腫瘍が5年間で5mm以上大きくなる確率が約4.5%程度あると言われています)。
一方で発見された時点ですでに2cmを超えるような大きな胃粘膜下腫瘍は、一度それがどのような性状の病変であるか、診断をつけた上でその後の治療方針を決定するのが一般的です。精密検査としては以下のような方法があります。
腫瘍の大きさ、内部の性状、造影効果、周囲の組織との関係性、転移の有無などを評価します。
先端に小型の超音波検査機器のついた特殊な内視鏡を用いて、胃の内側から直接腫瘍部分に超音波を当てて調べる検査方法です。腫瘍の大きさや深さ、内部の性状を詳細に評価します。
超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)や粘膜切開直視下生検法などを用い、腫瘍の細胞の一部を直接採取し診断します。
臨床的に遭遇頻度の高い病変としては下記のような疾患が挙げられます。
胃粘膜下腫瘍の中でも頻度が高く、悪性のポテンシャルを持った腫瘍で、診断がついた時点で大きさに関わらず手術が推奨されます。
全消化管で見られますが、胃が最多で約60%を占めます。小さいうちは他の胃粘膜下腫瘍との鑑別は難しい場合もありますが、大きくなると表面に潰瘍を形成し腫瘍が粘膜面に露出するため診断が容易になります。また、内部の性状も腫瘍径が大きくなると嚢胞性変化や石灰化などの内部変性を伴い、診断しやすくなります。
良性の胃粘膜下腫瘍の中で最も頻度が高いのが平滑筋腫です。食道にもよく見られ、食道粘膜下腫瘍の約70%を占めます。
胃粘膜下腫瘍の中でGISTや平滑筋腫と似た形態を示す良性腫瘍です。
胃粘膜深層から発生するため、正確には粘膜下腫瘍”様”の腫瘍であり、胃上皮下病変(胃SEL)の一種です。悪性度に応じてNET G1/G2、NECに分けられます。病態によってType I〜Ⅲと、そのいずれにも属さない胃壁細胞機能不全に伴う病変があり、そのタイプ別の治療法がガイドラインで提唱されています。比較的胃粘膜の表面近くに腫瘍細胞があるため、表面からの精検によっても診断可能なことが多いです。
脂肪組織から発生する腫瘍のため、黄色調で柔らかく、他の胃粘膜下腫瘍との鑑別は比較的容易です。
すい臓の組織が胃の粘膜の下にできてしまったもので、多くは胃前庭部にできる頂部に陥凹を伴う柔らかい粘膜下腫瘍として見られます。比較的典型的な内視鏡像をとるため、胃カメラ検査で診断可能な場合が多いです。
正確には胃粘膜下腫瘍ではありませんが、胃粘膜下腫瘍とよく間違われるものとして、胃壁外性圧排が挙げられます。胃に隣接する臓器や、その中にある病変により胃が直接圧迫され、粘膜下腫瘍様に見える状態です。
上述した病変の他にも、様々な種類の胃粘膜下腫瘍がありますが、その診断によりその後の対処法が異なります。良性の腫瘍であれば基本的には治療は不要で、悪性化しないかどうか、1年に1〜2回程度の胃カメラによる経過観察が行われます。
GISTと診断された場合は、基本的には大きさを問わず外科的手術の対象となります。近年では内視鏡医と消化器外科医が合同で手術にあたり、手術の創が最小限で済み、胃の機能を温存する新しい手術方法の開発も進んでいます。胃神経内分泌腫瘍(NET/胃カルチノイド)の場合は内視鏡的切除、または外科的手術の対象となります。
偽腫瘍と呼ばれる、一時的な炎症などに伴う胃粘膜下腫瘍様の病変であれば、稀に自然に消退するケースもありますが、真の粘膜下腫瘍の場合は自然に消えることはありません。
胃粘膜下腫瘍は良性のものから悪性のものまで、様々なものを含む疾患群の総称です。中にはがんと近しい悪性の性質を持った腫瘍も存在し、手術が必要になるケースもあります。治療が必要となる胃粘膜下腫瘍として頻度が高いのは、GISTと胃神経内分泌腫瘍(NET/胃カルチノイド)です。
胃粘膜下腫瘍は胃のバリウム検査がきっかけで見つかるケースも多いです。バリウム検査で胃粘膜下腫瘍が疑われた場合には、胃カメラ検査による精密検査が必要です。
胃粘膜下腫瘍は誰にでも発生し得るもので、ごく小さいものを含めると胃カメラ検査で約3%程度の頻度で見つかります。
がん研有明病院勤務時に消化器内科医向けの図書で粘膜下腫瘍に関する解説を担当しております。
石岡 充彬, 井出 大資, 千野 晶子, 斎藤 彰一, 五十嵐 正広. 【消化管粘膜下腫瘍(SMT)の診療】 臨床消化器内科 33巻12号 Page1561-1568 (2018.10).
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