食道がん
食道がん
食道がんとは、ノドと胃をつなぐ約25cmの細長い管腔臓器である「食道」にできる悪性の腫瘍です。食道が他の臓器と異なる特徴として、漿膜(しょうまく)と呼ばれる、臓器を覆う膜を持たないことが挙げられます。
このため、食道がんは周囲の臓器へと転移を起こしやすい性質があります。がんの転移の有無は、治療方針を大きく左右するため、食道がんは早期発見が特に重要視されるがんのひとつです。
食道がんには食道扁平上皮がん(SCC)と食道腺がん(EAC)の2つのタイプのがんがあります。それぞれのタイプで危険因子が異なります。
食道扁平上皮がん(SCC)の主な原因は飲酒と喫煙です。特に「フラッシャー」と呼ばれる、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の人はリスクが高いとされています。これはアルコールの代謝に関わる遺伝的な酵素活性の差によるものです。
アルコールを発がん物質であるアセトアルデヒドに分解する「ADH1B」と、有害なアセトアルデヒドを無毒化する「ALDH2」の2つの酵素遺伝子の組み合わせにより、食道がんのリスクを層別化することが可能です。
※当院でもアルコール代謝関連遺伝子検査が可能です(自費検査)
タイプ | ADH1B活性 | ALDH2活性 | 体質 |
---|---|---|---|
A | △ | ○ | 飲んでも赤くならないが、アルコールが体から抜けにくいタイプ。アルコール依存症になりやすい。 |
B | ○ | ○ | ざるタイプ。量も飲めるし、具合も悪くならない。 |
◎ | ○ | ||
C | △ | △ | 当は弱い体質なのに、赤くなりづらく「自分は強い」と勘違いして「がん」や健康被害を引き起こす一番危険なタイプ。 |
D | ○ | △ | フラッシャー。弱い自覚はあるが飲みすぎるとCタイプと同様に「がん」や健康被害を引き起こす危険なタイプ。 |
◎ | △ | ||
D | △ | × | 「下戸」タイプ。全くお酒が飲めないので、飲みすぎる心配はない。 |
○ | × | ||
◎ | × |
飲酒と喫煙以外のリスク要因としては、熱いものを冷まさずに飲む習慣もリスク要因とされています。
食道腺がん(EAC)は逆流性食道炎・バレット食道を背景として発生するタイプで、近年増加傾向にあります。肥満、男性、喫煙、ヘリコバクター・ピロリ菌陰性、バレット食道の存在がリスク因子として挙げられます。
バレット食道は、逆流性食道炎が慢性的に続くことで、食道の細胞が胃に近いタイプの細胞に置き換わった状態を指し、バレット食道化した粘膜の長さが2倍になると、発がんリスクは約1.7〜2.9倍に増加するとされています。逆流性食道炎やバレット食道を指摘されている方は、年1回の胃カメラ検査による経過観察をおすすめします。
食道がんの初期段階では、多くの場合、症状がまったく現れないことが一般的です。比較的早期の段階で患者様が自覚することがある症状としては、食道に「しみる感じ」を訴える方が多いように感じます。
この他にも、食道内の異物感や、ものがつかえる感じ、飲み込みづらさ、胸焼けなどが挙げられます。がんの進行に伴い、嘔吐や吐血、食欲の減退、体重減少などが見られることがあります。さらに、がんが周囲の臓器にまで及ぶと、声枯れや咳などの症状が出る場合もあります。
食道がんの治療法は、がんの進行度合いに応じて選択されます。以下は主な治療方法です。
早期の食道がんを対象に行われる治療方法です。ごく小さな病変を、スネアと呼ばれる金属の輪っかを用いて簡易的に切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)と、特殊な器具を用いてより大きな病変を切除する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)とがあります。
進行した食道がんに対する治療法で、食道の一部または全部を切り取る治療法です。これは消化器領域で最も身体に負担が大きい手術の一つです。食道を切り取った後は、胃を引き上げてつなぎ合わせたり、小腸の一部を使用して食道を置換したりします。
手術前には、化学療法(抗がん剤治療)もしくはこれに放射線療法を加えた化学放射線療法を補助的に行うことが一般的です。これにより手術を単独で行った場合よりも長期的な治療成績が向上することが示されています。また、何らかの理由で手術を行うことができない場合には、化学療法、放射線療法もしくはその両方のみを行うこともあります。
食道がんは喫煙者や常習的な飲酒者に多く見られます。禁煙や禁酒により食道がんの発生リスクが低下することが分かっているため、過去に喫煙や飲酒の習慣があった方も、諦めずに今から取り組みましょう。
早期の食道がんは消化器内科(胃腸内科・内視鏡内科)での治療が一般的です。進行した食道がんは、消化器内科・消化器外科の他にも放射線科・化学療法科など様々な専門家が連携を取りながら治療を進める「集学的治療」が行われますが、消化器外科(食道外科)が主体となって治療を進めることが多いです。
食道がんは男性に圧倒的に多く、これは男性の方が喫煙や飲酒の習慣が多いためです。ただし、同量のアルコールを摂取した場合、女性は男性よりもアルコールの悪影響を受けやすいため注意が必要です。また、タバコも吸わず、お酒も飲まない女性でも、熱い食事や飲み物の摂取が多い場合、突然食道がんが発生することもあります。
医療技術の進歩により、食道がんの治療成績は年々向上しています。しかし、早期の食道がんと進行食道がんとでは、治療内容に伴う身体への負担や社会的・経済的な負担も大きく異なりますので、定期的な胃カメラ検査による早期発見が非常に重要です。
進行した食道がんであればレントゲン検査やバリウム検査で見つかることもありますが、早期の食道がんを見つけるためには、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)一択と言えます。画像強調内視鏡と呼ばれる技術を用いて、早期食道がんの視認性を向上させた検査が可能です。
食道がんを予防する上で最も重要なのは、禁煙とアルコールの摂取を控えることです。また、食事は熱すぎるものを避け、適切な温度で食べる習慣をつけることが推奨されます。また食道腺がん(EAC)に対しては適正な体重管理が望まれます。
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