大腸ポリープ
大腸ポリープ
大腸ポリープは、大腸粘膜の表面にできる突起物の総称です。多くの場合、正常の大腸粘膜に遺伝子変異が加わることで、まずは良性(がんではない)のポリープが発生します。良性のポリープでも放置すると次第に成長し、将来的に悪性化(がんに変化)するリスクをもった、いわゆる「大腸がんの芽」のようなもので、適切な処置が必要です。
大腸ポリープには、いくつかの種類があります。ほとんどの大腸ポリープは良性ですが、中でも大腸がんの前段階として多いのは「腺腫(せんしゅ)」と「鋸歯状(きょしじょう)病変」と呼ばれるポリープです。この他に遭遇頻度の高いポリープとしては、炎症性ポリープ・過誤腫性ポリープなども挙げられますが、これらは一般的にはがん化しません。
大腸ポリープは、良性のうちはほとんど症状を引き起こしません。稀に、大きくなると便秘や下痢、便に血が混じるなどの症状が現れることがあります。大腸ポリープが成長し、がん化すると、便秘や下痢、血便以外にも食欲低下や体重減少などの症状が出てくる場合もあります。
一般的にストレスと大腸がんの直接的な関連性はありません。しかし、ストレスに伴い過食になったり、飲酒・喫煙量が増えたり、生活が不規則になることで体重増加などがあると、間接的に大腸ポリープのできる原因となる場合はあります。
確実に大腸ポリープのできやすさと関連しているのは下記の通りです。
大腸がんや大腸ポリープは特に遺伝的要因の大きい病気として知られています。ご家族や血縁者に大腸がんや大腸ポリープの病歴がある方は、定期的な内視鏡検査を強くお勧めします。
検査を開始する年齢は、遅くとも大腸ポリープや大腸がんの発生頻度が高くなる40歳からです。万が一、ご家族や血縁者で若年発症の大腸がんの方がいる場合は、家系内で最も早く発症した方よりも5歳若いうちからの検査開始をおすすめしています。
BMI 23を超えると大腸ポリープや大腸がんのリスクが上昇していくことが報告されています。また、BMIが1増えるごとに大腸ポリープや大腸がんのリスクは7~13%も増加することも報告されており、適正体重を保つような自己管理が求められます。
1日平均1合以上飲む人は大腸ポリープや大腸がんのリスクが約1.4倍、2合以上飲むとリスクは約2.1倍にもなると報告されています。1合というとビールや缶酎ハイ500ml、ワイン1/4本程度に相当します。また週2日は休肝日を設けるようにしましょう。
1回30分程度の軽く汗をかくような運動を週2回程度、継続して行うことで大腸ポリープや大腸がんの発生リスクを低減できることが知られています。
食物繊維の摂取量が極端に少ない場合、大腸ポリープや大腸がんの発生リスクが上昇すると言われています。ただし過度な食物繊維の摂取は反対に大腸ポリープの発生リスクになるとの見解もありますので、適度な摂取を心がけましょう。
胆石などで胆のう摘出術の治療歴がある方は、胆汁酸の大腸への流入が増加することによって大腸ポリープや大腸がんの発生リスクが上昇すると言われています。定期的な大腸カメラを受けることをおすすめします。
大腸ポリープの検査として最も有効なのが大腸カメラです。大腸カメラはポリープを直接観察することのできる唯一の方法で、かつその場で同時に切除することも可能です。ポリープの良性・悪性は、大きさや形、色、粘膜の模様などを総合的に判断し、その見た目からある程度判断は可能ですが、最終的には切除したものを顕微鏡で詳しく調べて「確定診断」をつけます。
大腸カメラ以外の方法として、大腸CT(CTコロノグラフィー)と呼ばれる検査も10mm以上の隆起型の病変に限ると、大腸カメラと同等の発見率が期待できるとされています。ただし、10mm未満の小さい病変や平坦型の腫瘍の発見率に関しては大腸カメラに劣ることや、大腸CTで異常を指摘された場合は、再度大腸カメラを受けなければならないというデメリットもあります。
また、世間的に最も多い勘違いは、「便潜血検査」です。これはあくまで「大腸がん」を検出するための検査ですので、がん化する前の大腸ポリープの発見を対象としていません。より早い段階で病変を見つけて大腸がんを予防するには不十分で、やはり直接大腸カメラを受けるのが一番確実です。
大腸ポリープの治療方法は、ポリープの種類や大きさ、形、数によって異なります。良性の大腸ポリープは、ほとんどの場合、内視鏡を使った切除が可能です。一方で悪性の大腸ポリープ(早期大腸がん)の場合、内視鏡での切除が可能な場合もありますが、外科手術が必要になる場合もあります。
大腸ポリープの治療で最も重要なのは、大腸ポリープを一括で完全に取り除くことです。分割で切除したり、部分的に取り残したりしてしまうと、大腸ポリープをとった場所から再発するリスクや、がんが転移するリスクが高まります。大腸ポリープを一括で完全に取り除くためには、治療前に正確な術前診断を行い、ポリープの種類や状態に応じて最適な切除方法を選択する必要があります。
大腸ポリープの切除方法には主に以下の3つがあります。
スネアポリペクトミーは、大腸ポリープに「スネア」と呼ばれる金属の輪っかをかけて病変を絞めあげ、電気を流して大腸ポリープを焼き切る方法です。主に有茎性ポリープ(正常の大腸粘膜と腫瘍との間に茎を持ったタイプ)もしくは亜有茎性ポリープ(正常の大腸粘膜と腫瘍との間にくびれのあるタイプ)に適した治療法です。
周りの正常な大腸粘膜を含めて確実に一括で取り切れる場合には、無茎性ポリープ(ポリープの根元全体が大腸粘膜についているタイプ)に対しても、この方法が用いられることもあります。
近年では、10mm未満の小さなポリープで、術前の内視鏡診断において良性のポリープと確信できる場合に限って、電気を流さずに切り取る「コールドースネアポリペクトミー」という手法も広く行われています。電気を流す場合よりも術後の出血リスクを低く抑えることができるメリットがある一方で、悪性のポリープには適さない治療法のため、内視鏡医の高い診断能力が求められます。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、主に20mm程度までの大きさの無茎性ポリープを対象とした治療法です。細い針を使ってポリープの下の粘膜下層に特別な液体(例:生理食塩水やグリセリン液)を注入し、病変部を膨らませてからスネア(金属の輪っか)で絞めあげ、電気を流して切除します。
この手法により、確実な一括切除が可能となりますが、一般的なスネアポリペクトミーの技術に加えて、注射の技術や病変の位置どりなど、より高度な技術が求められます。また、切除後の傷はスネアポリペクトミーよりも大きくなりやすく、術後の出血リスクもやや高くなるため、術後は必要に応じて、医療用のクリップで傷を閉じる処置を行う場合もあります。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、主に20mmを超えるような大きなポリープや、早期の大腸がんを、一括して完全に取り除くために行う治療法です。具体的には、粘膜下層に特殊な液体(例:生理食塩水やヒアルロン酸)を注入し、安全域を確保した上で、特殊な電気メスを使用して、病変のある部分を薄く剥ぎ取ってくるような治療法です。
病変の大きさにかかわらず一括で切除が可能な手法ですが、非常に高度な技術を要することや、偶発症のリスクも高いため、専門施設で入院して行われることがほとんどです。
大腸ポリープ切除後は、大腸の中に人工的な潰瘍ができた状態となります。傷は自然に治りますが、一般的に通電を伴わない処置でも術後24時間、通電を伴う処置の場合は術後2日〜1週間以内は術後出血が起こりやすいため、安静を要します。
切除したポリープの大きさや形、切除方法によって、安静期間は異なりますが、激しい運動や飲酒の制限など、生活制限が必要となる場合があります。また抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を飲んでいる方は出血リスクが高いため、より慎重な経過観察が必要です。当院では、術後安静期間が最も短くなるように治療法を選択しますが、個々の安静期間については術後個別にお伝えします。
大腸ポリープ切除後の食事と生活制限についての詳細な食事内容については下記ページもあわせてご覧ください。
大腸ポリープの治療後にも、また新たなポリープができてくる可能性がありますので、定期的な経過観察を行うことはとても重要です。特に、悪性のポリープや、10mm以上の大きなポリープ、または小さくても3個以上の大腸ポリープを切除された方には、1年後の経過観察をおすすめしています。それ以外の方は通常2〜3年に1回の大腸カメラが一般的な目安です。
全ての大腸ポリープが大腸がんになるわけではありませんが、一部のタイプは大腸がんへと進行するリスクがあります。大腸がんの原因として最も一般的な「腺腫(せんしゅ)」の場合、がん化率は大きさに応じて異なり、〜5mm:1.8%、5~10mm:9.1%、10~20mm:32.9%、20mm以上:67.8%と報告されています。
また「鋸歯状(きょしじょう)病変」は腺腫とは全く違う経路でがん化することがわかってきました。腺腫と比べると、がん化する頻度は低いものの、がん化すると進行が早いため、予防的な治療の対象となります。
大腸ポリープは、適切な体重管理・飲酒制限・食生活の改善・定期的な運動習慣により、ある程度の予防効果は期待できます。ただし、大腸ポリープは年齢を重ねるとできやすくなり、遺伝的な要素も絡むため完全に予防することはできません。
大腸がんは男女ともに発症頻度の高いがんですが、定期的な大腸カメラで、大腸ポリープを早期発見・治療することによって、将来の大腸がんの多くは予防することが可能です。
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