潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、厚生労働省が指定難病として定める、慢性的な腸の炎症を起こす原因不明の疾患で、クローン病と並んで「炎症性腸疾患」の1つに分類されます。潰瘍性大腸炎の患者数は年間約1万人ペースで増加の一途を辿っていて、現在の推計患者数は25万人にも上るとされています。
発症年齢のピークは20歳台の若年層で、血便をきっかけに診断されるケースが多いです(65歳以上の高齢発症も10%程度見られます)。典型的には直腸から始まり、徐々に炎症の範囲が口側方向へ拡がっていきますが、病変の罹患範囲によって、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類されます。
炎症が長期化すると、大腸がんを合併するリスクが高くなることが知られていて、累積がん発生率は10年で1.6%、20年で8.3%、30年で18.4%と報告されています。また、潰瘍性大腸炎の罹患範囲によっても大腸がんの発生率は異なり、潰瘍性大腸炎全体の大腸がん合併率は3.7%であるのに対して、全大腸炎型に限ると5.4%と高いことも知られています。
潰瘍性大腸炎の主な症状は、持続する、または繰り返す血便です。病状が悪化すると、便回数が増え血性下痢となったり、腹痛や発熱を伴ったりする場合もあります。2週間以上持続するような血性下痢などの典型症状を示す場合は、比較的診断は容易です。
しかし、一度血便があったが、受診時には既に落ち着いてしまっているようなケースや、数日前から始まった血便などの場合は、急性の胃腸炎や痔核出血などとの鑑別も必要となり、慎重に見極める必要があります。ごく軽症の場合は、自覚症状がないケースもあり、便潜血検査で陽性となったことを契機に大腸カメラ検査を受けて、潰瘍性大腸炎と診断される場合も稀にあります。
潰瘍性大腸炎の病因・病態は少しずつ明らかになってきてはいるものの、未だ完全には解明されていません。潰瘍性大腸炎は親子間・兄弟間での発症が〜15%程度見られることから、なんらかの遺伝的要因が関与していることが想定されます。また、虫垂切除をした方は、潰瘍性大腸炎になりにくいことが分かっていて、腸内細菌叢や腸管免疫も潰瘍性大腸炎の発症に関与している可能性が示唆されています。
潰瘍性大腸炎は、炎症の改善と悪化を繰り返し、生涯にわたって治療が必要な病気です。残念ながら、今のところ潰瘍性大腸炎を完治させる治療法はありません。そのため、炎症がある時には速やかに炎症を抑え(寛解導入)、炎症が落ち着いている時には再び悪化するのを防ぎ(寛解維持)、できるだけ長く炎症がない状態を保つことを治療の目的としています。
治療のゴールは2段階あり、1つは「臨床的寛解」、もう1つは「粘膜治癒」です。臨床的寛解とは、血便や下痢、腹痛といった自覚症状が見られない状態まで改善した状態を指します。しかし、自覚症状が改善しても、内視鏡で観察すると粘膜の炎症が残っているケースも多々あります。この場合は再燃率(症状が再び悪化してぶり返す確率)が高くなることや、炎症の長期化による発がんのリスクとなるため、次の段階として、肉眼レベル、さらには細胞レベルで炎症がない状態を目指すことが重要で、これを「粘膜治癒」と呼びます。
潰瘍性大腸炎の治療法は病変の罹患範囲と発作時の重症度によって異なります。
潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬で、軽症〜中等症の第1選択薬です。寛解導入および寛解維持のいずれにも有効です。薬の成分が直接粘膜に張り付くようにして作用する「大腸に塗る軟膏剤」のようなイメージです。
通常の薬は大腸に到達する前に溶けて吸収されてしまいますが、大腸で有効に作用するように、特殊なコーティングをされたカプセルに入ったタイプが一般的に使用されます。左側大腸炎型〜全大腸炎型には内服薬が用いられ、直腸炎型に対しては坐薬タイプが用いられることが多いです。
潰瘍性大腸炎の活動性の炎症を迅速に鎮める薬剤です。内服もしくは点滴として用いられます。非常に効果が高い反面、長期的に使用すると様々な副作用が出ます。ステロイドの総投与量が7000mgを超えると「不可逆的な副作用が起こる」とされ、10000mgにかけて増加していくため、繰り返しの使用が必要な場合には他剤への切り替えが必要となります。
ステロイド治療を繰り返す、もしくはステロイドをなかなか減量できないような「ステロイド依存例」に対して寛解維持を目的として使用される薬剤です。遺伝子型によっては白血球減少や脱毛などの重篤な副作用が見られるため、遺伝子型を調べてから用いられることも多いです。いずれ、専門的な管理が必要で、使用経験が豊富な専門家が扱うべき特殊な薬剤です。
2010年以降に増え始めている比較的新しい治療法です。効果が強力かつ、寛解導入から寛解維持までを単一の薬で行うことが可能で、難治性の潰瘍性大腸炎の治療における中心的な役割を担います。
潰瘍性大腸炎は、適切な治療介入を行った場合、初回発作後約70%の症例は寛解〜軽症状態で経過します。つまり、約70%の患者様は、5-ASA製剤の経口製剤あるいは局所製剤を中心に、ステロイドの使用まででコントロールが可能で、消化器内科クリニックで対応可能です。反対に、これらではコントロールの効かない、重症例や難治例においては、炎症性腸疾患の専門家による治療介入が望ましく、主に下記のような場合は必要に応じて適切な医療機関をご紹介します。
紹介後も、病状が安定した場合は、再度クリニックでの投薬治療を継続していただくことも可能です。
潰瘍性大腸炎の多くは再燃と寛解を繰り返し慢性的な経過を辿りますが、一部には初回の発作後に寛解、もしくは治療が不要なごく軽症となる「初回発作型」の潰瘍性大腸炎もあります。特に軽症の直腸炎型の場合に見られやすく、左側大腸炎型〜全大腸炎型では自然観界はほとんど見られません。
潰瘍性大腸炎を完治させる治療法はありませんが、70%の患者様は5-ASA製剤を中心とした内服治療と局所製剤で落ち着いて経過します。治療の上で一番重要なのは「内服遵守率」で、薬を指定の用法・用量を守って忘れずに継続することで効果が期待できます。
ストレスや暴飲暴食は病状悪化の要因になるため、注意が必要です。医療機関によっては厳しい食事制限を課される場合もありますが、当院では食事はなるべく好きなものを食べられるような指導としています。
炎症が落ち着いかない場合は手術治療が必要になる場合もあります。潰瘍性大腸炎は大腸にのみ炎症を起こすため最終的には大腸全摘することが最終手段となります。炎症性腸疾患を治療する内科医としては、極力このような手術が必要にならないためにも、様々な薬剤を用いて炎症の鎮静化を目指しています。
潰瘍性大腸炎が大腸にのみ炎症を起こすのに対し、クローン病は口から肛門まで全ての消化管に炎症を起こし、より治療が困難です。腸管狭窄や、肛門部病変、膿瘍形成など、腸管外合併症の頻度も高く、全身的な管理が必要となるため、総合病院での治療が勧められます。
潰瘍性大腸炎は、厚生労働省が定める指定難病の1つで、「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づいて医療費の助成が受けられます。中等症〜重症の場合、窓口での自己負担は2割となり、自己負担上限額を上回る場合は、その差額分が支給されます。
軽症〜寛解状態では助成の対象外となりますが、医療費が33,330円を超える月が年間3回以上ある場合は、軽症高額に該当し助成対象となります。助成制度を受けるためには指定難病の受給者証が必要となるため、難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要になります。私は難病指定医の資格も持っていますので、必要な方にはご案内します。
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