胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍とは、なんらかの原因で胃や十二指腸の壁に傷がつき、粘膜がえぐれた状態です。胃や十二指腸は、外から入ってくる食べ物や消化液といった攻撃因子に常にさらされていますが、同時に自身が分泌する粘液という防御因子とのバランスを保つことで、健康な状態を維持しています。
なんらかの要因でこの攻撃因子と防御因子のバランスが崩れると、粘膜の表面に傷がつきます。この傷が浅い状態を「びらん」とよび、傷が深くなると「潰瘍」と称されます。
胃・十二指腸潰瘍の最も一般的な症状は腹痛です。典型的には、胃潰瘍では食後に痛みが現れ、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みが起こり、食事によって一時的に痛みが和らぐ場合があります。鋭い痛みというよりは、鈍く重い痛みを自覚する方が多いです。
潰瘍から軽度の出血が見られる場合などには胸焼けや吐き気症状を自覚する場合もあります。
出血量が多いと貧血となり、めまいやふらつきといった貧血症状を伴う場合があります。ただし出血がゆっくり進んだ場合は身体が順応してしまい、貧血があっても無症状の方もいます。健診などで貧血を指摘されたのを契機に潰瘍が見つかる場合もあります。
出血が比較的急速かつ多量に起こった場合は、吐血する場合があり、緊急の止血処置を要します。
出血がゆっくり進むと、血液が胃酸で酸化し黒くなります。これが便に混じることにより、便の色が黒っぽくなります。
胃・十二指腸潰瘍の原因は大きくピロリ菌感染、薬剤性潰瘍、それ以外の特発性潰瘍の3つに分けることができます。
ピロリ菌感染は胃・十二指腸潰瘍の主要な原因のひとつとして知られています。ピロリ菌が原因の場合、除菌治療を行うことで再発を抑えることができます。ピロリ菌の除菌治療の普及に伴い、ピロリ菌感染による胃・十二指腸潰瘍は減少傾向にあります。
高齢化社会において増加傾向にあるのが薬剤性潰瘍です。原因になりやすい薬品群はNSAIDs(エヌセイド)や低用量アスピリンといった、いわゆる痛み止めの類です(アスピリンは抗血小板薬として心疾患の既往のある患者様にも用いられる場合があります)。他にもステロイド内服も薬剤性潰瘍の一因となります。
ピロリ菌感染と薬剤性以外の原因からなる良性の胃・十二指腸潰瘍を特発性潰瘍と呼びます。一般によく知られているものとしては、ストレス性潰瘍などが該当します。
加えて、良性の潰瘍とは別に「がん性潰瘍」と呼ばれる悪性の潰瘍も存在します。胃カメラ検査では、潰瘍組織の一部を採取(生検)し、顕微鏡で詳しく調べることによって、良性か悪性かの確定診断まで行うことができます。
胃・十二指腸潰瘍の治療には、プロトンポンプ阻害薬(PPI) またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる、胃酸の分泌を抑える薬が第一選択薬として用いられます。内服治療期間は通常4〜8週間程度です。
胃粘膜を保護する目的で酸分泌抑制薬と組み合わせて用いる場合があります。
薬剤性潰瘍(NSAIDs潰瘍)に対してはミソプロストールと呼ばれる内服薬を用いる場合もあります。この薬は、胃酸分泌を抑えるとともに、胃・十二指腸粘膜の血流を豊富にし、粘液分泌を促進することによって粘膜を保護する作用があります。
一般的な胃・十二指腸潰瘍であれば、適切な治療により4〜8週間程度で完治します。ピロリ菌感染が原因の胃・十二指腸潰瘍の場合、引き続いて除菌治療を行うことで再発を予防します。胃酸分泌を抑制する薬1種類と抗生物質2種類の計3種類の薬剤を用いた「3剤併用療法」で1週間の内服治療を行います。また、難治性の潰瘍や再発を繰り返す潰瘍の場合は、特殊な疾患が潜んでいないか、潰瘍組織の一部を採取(生検)し、顕微鏡で詳しく調べたり、血液検査をすることによって、精密検査を追加します。
深くえぐれた潰瘍ができた場合や、小さい潰瘍でも粘膜に近い血管が破れた場合(デュラフォイ潰瘍)、消化管内に出血を起こすことがあります。出血量が多い場合、吐血や黒色便といった症状が見られ、止血処置が必要です。
傷が極端に深く、胃や腸に穴が空いてしまう状態です。強い痛みを伴い、緊急手術の対象となります。
日常生活の注意点としては、痛み止めを常用しない(もしくは常用が必要な場合は、胃薬を一緒に飲む週間をつける)、過度なストレスを避ける、禁煙することが重要です。
無症状の浅い潰瘍であれば、治療をしなくても自然治癒するケースもあります。ただし、痛みや出血などの症状を伴う場合は治療が必要ですので、専門の医療機関を受診してください。
一般的に「潰瘍」と呼ぶ場合、良性の潰瘍を指しますが、一部に胃がんや悪性リンパ腫などの悪性の潰瘍も存在し、外見上の区別が難しい場合もあります。このような場合、潰瘍組織の一部を採取(生検)し、良性・悪性の判別を行います。
胃・十二指腸潰瘍の治療期間中は消化の良い食事を心がけ、高脂肪食や刺激物などは避けましょう。
胃・十二指腸潰瘍は昔は男性の方が多い傾向にありましたが、年々男女差は少なくなっています。
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