
慢性便秘
慢性便秘
「便秘」とは、排便の回数が少ない、便が硬くて出にくい、排便してもスッキリしない、などといった状態が続いていることを指します。日本人の平均的な便回数は1日あたり1.4回程度とされていて、一般的には、排便が週に3回未満の場合には便秘症が疑われます。ただし、毎日排便があっても、排便時に痛みを感じたり、残便感があるようなスッキリしない排便の場合は、便秘と考えられますし、反対に3日に1回の排便であってもバナナ状の便がスッキリと排便できて、困っていなければ、必ずしも便秘ととらえる必要はありません。
大切なのは、「毎日出ているかどうか」よりも、「バナナ状の形をした柔らかい便が、スムーズに・気持ちよく出せているかどうか」です。慢性便秘は単に生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、心疾患や脳卒中など循環器系の疾患リスクを高めることが研究で示されていて、死亡リスクの上昇につながる重要な「疾患」ですので、放置せずにきちんと対処することが大切です。便秘は体質だから…とあきらめず、まずはご自身の排便習慣を見直し、必要に応じて専門医の診察を受けましょう。当院では慢性的な便秘にお悩みの方に向けて「便秘外来」を設けています。
食事・生活習慣の見直しから、便秘のタイプに応じた薬物療法、必要に応じた検査(大腸カメラ検査や腸内細菌叢検査など)まで、一人ひとりに合わせた丁寧な診療を行っています。長引く便秘にお悩みの方はお気軽にご相談ください。
ひとことで「便秘」といっても、その原因やタイプはさまざまです。適切な治療や対策を行うためには、便秘の種類を見極めることが非常に重要です。そのためには、まず「正常な排便がどのように起こるか」というメカニズムを理解することが第一歩となります。ここでは私たちの体の中で便がどのように作られ、運ばれ、排出されるのかという「排便のしくみ」について、わかりやすく解説します。
【口〜胃】食べ物の分解が始まる
食事をとると、まずは口の中で噛み砕かれ、唾液の酵素で一部が消化されます。その後、食道を通って胃に運ばれ、胃酸と消化酵素によって食べ物はドロドロの状態になります。
【小腸】栄養と水分の吸収
胃で消化された食べ物は、小腸へ送られます。ここでは胆汁や膵液と混ざりながら、糖分・脂質・たんぱく質などの栄養素が吸収され、さらに水分も取り込まれます。このとき、残った消化されない成分(主に食物繊維)が便のもととなり、液体状のまま大腸へと送られます。
【大腸】便の形成と移動
大腸に入った内容物は、時間をかけてゆっくりと移動しながら水分を吸収され、次第に固形の便の形へと整えられていきます。この便は、上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸と進み、最終的にS状結腸に一時的に貯留されます。通常、直腸には便は存在せず、排便のタイミングに合わせて送り込まれる仕組みになっています。
【排便反射】排便のスイッチが入る
朝、目覚めて食事をとると、食後30分〜1時間ほどで腸が強く動き出す「胃・結腸反射」という腸の反応が起こり、腸の蠕動運動が活発になります。とくに、空腹時間が長かったり、しっかりとした食事をとったときにはこの反射が強まりやすいです。この反射によって、「大蠕動」と呼ばれる強い腸の動きが起こり、S状結腸から直腸へ便が移動し、直腸の内圧が一定以上に高まると、「便意」が生じて排便に至ります。
このように、正常な排便には、消化・吸収・水分調整・神経反射など多くの段階が正常に働いていることが必要です。このどこかに不調があると、スムーズな排便ができなくなり、「便秘」となります。
ひとことで「便秘」といっても、その原因や排便のプロセスのどこで問題が起きているかによって、いくつかのタイプに分類されます。適切な治療を行うためには、自分がどのタイプの便秘に当てはまるかを知ることがとても重要です。主に、以下の3つに分けられます。
大腸の動き(蠕動運動)自体は正常で、排便のメカニズムにも大きな異常がないタイプです。それでも便秘になるのは、食物繊維や水分の不足、運動不足、ストレスなどの生活習慣の乱れが主な原因となることが多く、「習慣性便秘」とも呼ばれます。背景としては、以下のような要因が挙げられます。
このタイプの便秘の方は、便を自分の力で出すポテンシャルがある(腸の運搬機能自体は保たれている)ため、生活習慣を見直すことで自然な排便力を取り戻すことが可能です。実際、便秘薬に頼らずに改善できるケースも少なくありません。
大腸そのものの動き(蠕動運動)が弱く、便を運ぶ力が低下しているタイプです。便が腸内に長時間とどまるため、水分が過剰に吸収され、便が硬くなってしまいます。以下のような方はこのタイプの可能性があります。
注意すべきなのは、このタイプの方は「食物繊維をたくさん摂りましょう」と指導すると、かえって便秘が悪化する場合があるという点です。便を運ぶ力が低下しているため、運ぶべき荷物が増えすぎると運びきれず、ガスや腹部膨満感などの不快症状が悪化することがあります。このタイプでは、生活習慣の見直しだけではなく、クセにならない便秘薬を長期的に継続して必要になるケースが多いです。
「薬からを使わない排便」を目指すことよりも、「薬を上手に使いながら便秘とうまく付き合っていく」ことが大切であるということを理解することが重要です。
便が直腸まで来ているのに、うまく排便できないタイプです。
骨盤底の筋肉がうまく緩まなかったり、いきんでも力が伝わらなかったりすることで、「出したいのに出ない」「便意はあるのに出しきれない」という症状が出ます。治療によって便が硬くないにも関わらずうまく出せない場合や、残便感が強い場合は排便障害の可能性があります。排便姿勢の改善や骨盤底リハビリ、排便トレーニングなどが必要になることもあります。
慢性便秘は多くの場合、生活習慣や体質による「機能性便秘」で、生活改善や薬物治療でコントロールが可能です。しかし、中には大腸がんや炎症性腸疾患(クローン病など)など、大腸そのものに何らかの異常があることが原因で起こる「器質性便秘」が隠れている場合があります。この「器質性便秘」を見逃して治療を始めてしまうと、命に関わる重大な病気の発見が遅れてしまうこともあるため、最初にしっかり大腸カメラ検査を行い、これらの疾患を除外することが非常に重要です。
これらの症状がある場合には、機能性便秘と自己判断せず、必ず専門医の診察を受けるようにしましょう。当院では、便秘の原因を見極めるために、必要に応じて大腸カメラ(大腸内視鏡検査)などの精密検査を行っています。「まずは器質性便秘を除外する」ことが、安全で適切な便秘治療の第一歩です。便秘が長引いている、あるいは不安な症状がある場合には、どうぞお気軽にご相談ください。専門的な視点から、見逃してはいけない病気がないかを丁寧に確認したうえで、適切な便秘治療をご提案します。
大腸がんができると、便の通り道が狭くなり、便が出にくくなることがあります。特に、便が細くなったり、血が混じったり、体重が急激に減少している場合は要注意です。大腸ポリープは小さい場合は症状が出にくいものの、サイズが大きくなると排便障害の原因になることもあります。
一見すると下痢のイメージが強い疾患ですが、慢性的な腸の炎症によって、腸の動きが悪くなったり、腸が狭窄を起こして便秘が目立つケースもあります。
手術後の癒着や腸のねじれ(腸捻転)などにより、腸が物理的に狭くなったり塞がれたりする状態です。腹部膨満、嘔吐、激しい腹痛などが同時に起こる場合には緊急性を要します。
女性に多く、直腸が膣や膀胱側に脱出することで、便がうまく押し出せないという排便障害を引き起こします。「便意はあるのに出ない」「強くいきんでも出せない」といった症状が特徴です。
慢性的な便秘がある場合、その原因やタイプを正しく把握することが、的確な治療につながります。問診だけでなく必要に応じて検査を行い、病気の有無や腸の形を評価します。ここでは、便秘の検査・診断方法についてご紹介します。
問診は便秘のタイプを見極める第一歩です。以下のような点をお伺いし、便秘のタイプ(機能性か器質性か、大腸通過正常型か大腸通過遅延型か)を絞り込んでいきます。
大腸がん、大腸ポリープ、炎症性腸疾患などの器質的疾患の有無を直接確認できる最も確実な検査です。また、大腸憩室や癒着の有無、腸の形まで評価可能です。
主に腸の動きやガスの分布、便の硬さまで評価可能です。被ばくがないため、繰り返しの検査にも適しています。
当院では2種類の腸内細菌検査キットを取り扱っています。
腸内細菌叢検査の詳細は次の項目も合わせてご覧ください。
さらに詳しい排便機能評価が必要な場合は、バリウムやマーカーを使って腸の通過速度や排便時の筋肉の動きを評価する検査もあります。これらは特殊な検査装置が必要なため、限られた施設でのみ実施可能ですので、ご希望の場合は専門施設をご紹介することも可能です。
便秘が続く原因は、単なる食生活や運動不足だけではありません。腸の中には約100兆個の細菌が住みつき、消化・免疫・蠕動運動のリズムまでコントロールしていますが、慢性便秘の多くはこの「腸内細菌叢(腸内フローラ)」のバランスが崩れていることが背景です。これまで診察の中で、「水分も摂ってるし、野菜も意識してるんですけど…」「ヨーグルトも毎日食べてるのに、変わらないんです」といったお声を本当にたくさん耳にしてきました。でも実際には、どれだけ丁寧に食事に気を配っても、それが“今の自分の腸内細菌バランス”に合っていなければ、期待した効果は出にくいのです。腸内環境は「便秘に良さそうなことをすれば整う」という単純なものではありません。まずは腸内細菌叢検査で「見えない問題」を「見える化」してみることに意味があります。思い込みやネットの情報に頼るのではなく、科学的に“自分の腸内環境”に基づいた対策を始められる。それが、腸内細菌叢(腸内フローラ)検査の最大の意義です。
これまで、私はあまり腸内細菌叢(腸内フローラ)の検査に積極的ではありませんでした。なぜなら、検査をして「自分の腸内に○○菌が少ない」とわかっても、それを整えるには、食事や生活習慣において多くのことを変えなければならなかったからです。
私はおいしいものを食べるのが大好きで「便秘のために、食生活をガラッと変えるのはちょっと無理だな」と、思っていました。そんな私の考えを変えたのが、キリンが提供する腸内細菌叢検査キット「MicroBio Me(マイクロバイオミー)」との出会いでした。この検査には、日本で最も詳細とされる腸内細菌分析を行ったうえで、自分に足りない有用菌を“育てるための食物繊維サプリメント”を提案・購入できるという画期的な仕組みがありました。つまり、大きくライフスタイルを変えずとも、今の自分の腸内環境に合った“効率的な腸活”が可能になったのです。「便秘をなんとかしたい、でも食生活まで縛られたくない」――そんな方にこそ、MicroBio Meをおすすめします。
一方で、「生活改善にもきちんと取り組みたい」「自分の腸内フローラを気軽にチェックしたい」という方には、もう一つの検査キット「Mykinso Pro GutV4」をご用意しています。こちらは、比較的お手軽に腸内細菌叢の全体像を把握できる検査で、日常生活に取り入れやすい改善アドバイスもセットになっています。
検査キット名 | 特徴 | こんな方におすすめ |
---|---|---|
MicroBio Me 44,000円 |
日本で最も詳細な腸内細菌検査+自分に合った食物繊維サプリが購入可能 | 食事スタイルを大きく変えずに腸活したい方 |
Mykinso Pro GutV4 22,000円 |
お手軽かつ全体的な腸内バランスを知ることができる | 生活改善も含めて自分と向き合いたい方、初めて腸内検査を受ける方 |
腸内フローラ検査をご希望の方は、受付または診察時にお気軽にお声かけください。
慢性便秘の治療には、ただ薬を使えばよいというものではありません。本当の意味で便秘を改善し、再発しにくい身体をつくるためには、「5つの柱」を意識することが大切です。
まず、自分の便秘がどのタイプなのか(腸の動きが悪いのか、排便の仕方に問題があるのか)を正しく知ることが大切です。自己判断やネットの情報だけに頼らず、医師とともに原因を見極めることで、無駄のない治療が始められます。
便の“材料”となる食物繊維、水分、発酵食品などを意識して取り入れることで、腸内環境が整い、自然な排便力が戻ってきます。特に水溶性食物繊維やネバネバ食材、バナナ・キウイなどはおすすめです。
適度な運動は腸の動きを活発にし、便をスムーズに送り出す助けになります。ランニングやストレッチなどの軽い運動でも、腸の蠕動(ぜんどう)運動に良い影響を与えます。
朝食をしっかりとる、便意を我慢しない、決まった時間にトイレに座るなど、排便のリズムを整える行動が腸の学習につながります。睡眠やストレスの影響も便秘に直結するため、全体の生活バランスも重要です。
症状や便秘のタイプに応じて、便をやわらかくする薬・腸を動かす薬などを適切に使います。薬は「一時しのぎ」ではなく、腸の正常なリズムを取り戻すための“サポート役”と考えましょう。
すべてを一度に完璧に行う必要はありません。一人ひとりの状態や生活に合わせて、どこから取り組むかを医師と相談しながら決めていくことが大切です。当院では、便秘治療の経験豊富な医師が、これらの5本の柱に基づいて、あなたの腸に合った治療方針をご提案します。便秘に悩む日々から抜け出したい方は、まずはお気軽にご相談ください。
一般的には「内科」または「消化器内科」が適しています。特に長引く便秘や、大腸の病気が疑われる場合には、大腸カメラ検査(内視鏡検査)などの検査ができる「消化器内科」や「内視鏡クリニック」の受診をおすすめします。便秘外来を掲げているクリニックでは検査から治療まで総合的に行えるので安心です。
一般的には「週3回未満の排便」が便秘の目安とされています。ただし、回数よりも「出しづらさ」や「残便感」「便が硬い」といった“質”の問題の方が重要です。毎日出ていてもスッキリしない、強くいきまないと出ない場合も便秘と考えられます。
食物繊維を多く含む食材、発酵食品、水分を意識して摂ることが基本です。特ににおすすめなのは、水溶性食物繊維(オクラ、山芋、わかめ、キウイ、バナナ、大麦など)や発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌、ぬか漬けなど)です。これらを毎日少しずつ、バランスよく取り入れることが大切です。
腸の動きが弱いタイプの便秘(大腸通過遅延型)の方では、摂りすぎた食物繊維が腸内で滞り、かえって症状が悪化することがあります。この場合は、「水溶性食物繊維」を意識に取ることや、腸の滑りを良くする良質な脂質(ナッツやオリーブオイルなど)に加え、水分もしっかり摂ることがポイントです。自分の便秘タイプに合った食事を選ぶことが重要です。
食べたもののすべてが便になるわけではないからです。私たちが食事からとった栄養の大部分(炭水化物・たんぱく質・脂質など)は、小腸で吸収され、体の中に取り込まれてしまいます。そのため、便として出てくるのは消化・吸収されなかった残り物です。具体的には、便の構成はおおよそ以下のとおりです:水分:約75%、食物繊維:約10%、腸内細菌(死菌含む):約10%、腸の粘膜細胞の残骸や分泌物など:約5%
つまり、便の「かさ」を作っている主な材料は、食物繊維と腸内細菌です。炭水化物や肉類、油ものなどをたくさん食べても、それらはほとんどが吸収されてしまうため、便の量には直結しません。「けっこう食べてるのに出ない」と感じる方は、食物繊維の摂取量が足りていない可能性が高いです。特に水溶性と不溶性の両方をバランスよく摂ることが重要です。
飲んだ水のすべてが大腸に届くわけではありません。水分は口から摂取されると、胃や小腸で吸収され、多くは体の水分代謝や血液循環に使われます。大腸に届くのはごく一部に過ぎません。さらに、便に適度な水分を含ませるには、水分だけでなく食物繊維(特に水溶性)との組み合わせが不可欠です。水分だけを摂っても、便の材料(食物繊維)が不足している、腸の動き(ぜん動運動)が弱い、排便のタイミングが整っていないなどの要因が残っていると、便秘は改善されません。また、冷たい水ばかりを飲んでいると、腸の動きがかえって鈍くなるケースもあります。水分は“補助的な条件”であり、食事・運動・生活習慣とのバランスが重要です。
軽度の便秘や生活習慣が原因の便秘であれば、薬に頼らず改善できる場合もあります。ただし、腸の動きそのものが低下しているタイプの便秘では、薬を使わないことにこだわらず、上手に薬を付き合いながら便秘と付き合っていくのが現実的です。
便秘薬の中には、長期連用で耐性や依存性が出るタイプの薬(刺激性下剤)もありますが、非刺激性下剤など適切な種類・量を正しく使えばクセになることはありません。
一時的には問題ないこともありますが、自己判断で長期使用するのはおすすめできません。刺激性の下剤を長く使い続けると、腸が薬に慣れて動きが鈍くなる(薬剤性便秘)可能性があります。便秘のタイプによって適した薬が異なるため、便秘治療の経験が豊富な医師の指導のもとで使用することが安全かつ効果的です。
はい、なります。便意は直腸に便が届いたという“サイン”ですが、我慢を繰り返すとその感覚が鈍くなり、排便反射が起きにくくなります。できるだけ便意を感じたら我慢せずにトイレに行く習慣をつけましょう。
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