便秘外来
便秘外来
便秘は多くの人が抱える問題ですが、その原因や症状は人それぞれ異なります。慢性的な便秘症状がある場合、日々の生活習慣や食生活の改善指導を含めた総合的な診断と治療が必要となりますが、一般的な外来診察枠では時間が足りないことが多いです。
そのため、当院では専門的な知識と時間を要する便秘治療に対応するために、便秘専用外来枠を設けています。
※一般外来でも便秘のお悩みの相談自体は可能です。便秘専門外来は枠数が限られていますが、それぞれの患者様に十分な時間を確保し、より根本的な解決を目指します。長年の便秘にお悩みの場合は、治療にも相応の期間を要するケースが多いです。単発の受診ではなく、回数を重ねる治療が必要であることはご承知おきください。最終的には通院なし、もしくは身体に負担の少ない薬を併用しながらのセルフケアで、排便調整が可能になることを目標としています。
便秘はただ単にお腹が張る、苦しいなどといった腹部の不快感を伴うだけのものではなく、心臓や血管に負担を与え、心筋梗塞や脳梗塞といった病気のリスクにもなり、死亡率を上昇させることがわかっています。
また、便秘と大腸がんの因果関係についてはまだはっきりとした見解はありませんが、東北大学の研究によると、便通回数が1日1回ない場合は直腸がんの発症リスクが高くなり、下剤の使用頻回の使用が結腸がんの発症リスクを上昇させている可能性がある、とされています。
便秘は、食生活・運動習慣・自律神経・年齢・性別・基礎疾患など様々な原因が複雑に絡み合って起こります。若年では女性に多く、高齢になると男性でも便秘の方が増える傾向にあり、男女間の差はほとんどなくなります。
便秘の原因の中で最も危険なのは「大腸がん」です。がんによって大腸の内腔が物理的に狭くなることにより、便通が悪化します。特に、40歳以上になってから急に便秘になった場合や、血便や腹痛、体重減少を伴う便秘の場合は早急な精密検査が必要です。
糖尿病や甲状腺機能低下症などの基礎疾患があると、腸の動きは悪くなり便秘になりやすくなります。また高血圧に対する一部の降圧剤や、神経疾患に対する薬剤による便秘もあるため、総合的な管理が必要になります。
健康な便は、70~80%が水分、残りが固形成分(未消化の食物残渣と腸内細菌や古くなった腸の細胞の残骸など)でできています。固形成分の中でも大きな比率を占めるのが食物繊維です。食生活が偏り、食物繊維が不足したり、水分の摂取量が不足したりすることは便秘の原因となります。また、朝食の摂取により、胃結腸反射による大腸の大蠕動が発生し、便意を感じやすくなるため、規則正しい生活リズムを整えることも重要です。
食物繊維の摂取は単独で行うよりも、適度な運動と組み合わせることでより効果を発揮することが分かっています。ウォーキングよりは、同じ速度でもゆっくりランニングのような腸が上下に動く運動の方が効果的です。また、運動が苦手な方は、腸マッサージのように身体の外側から大腸を直接刺激してあげることも有効です。
大腸の動きと自律神経には密接な関係があり、特に副交感神経が優位な時に腸の動きが活発化します。反対に、ストレスが多くなり交感神経優位となると腸の動きは鈍くなります。また、便意を我慢しすぎると直腸の知覚が鈍化し、便意を感じにくくなってしまうため、我慢せずにトイレに行く習慣をつけることも重要です。
便秘外来では、まずは現在の排便状況について伺います。具体的には週に何回程度の排便か、便の形状や硬さはどうかなどについてです。そして、現在の服薬状況についてです。使用している下剤の種類や量についても確認します。
中には、下剤を飲んでいるつもりがなくても、同成分を含む健康茶や漢方、サプリメントなどを内服しているケースもありますし、飲んでいる下剤の種類は合っていても、飲み方が間違っているケースなどもあります。ご自身の現状を理解した上で、便秘とその対処法に対する正しい知識を身につけていただ苦ことが便秘治療の第一歩となります。
便秘薬のうち、頻用される薬は大きく分けると次のように分類されます。状態に応じてこれらを単独、もしくは組み合わせて処方します。
下剤の種類 | 作用 | 特徴 |
---|---|---|
刺激性下剤 | 大腸の筋肉を動かす神経を直接刺激して、腸の蠕動を促すことによって溜まった便をリセットする。 | 内服から8〜12時間程度で作用し、スッキリ感が強いメリットがある一方、薬剤耐性や精神的依存性があり、長期連用には向かない。 |
浸透圧性下剤 | 腸管内に水を引っ張ることで、便を柔らかくする。 | 便の硬さに応じて、内服量を調整することができる。 |
上皮機能変容薬 | 腸粘膜上皮に作用して腸管内の水分分泌を増加させ、排便を促す。 | 併用禁忌薬がなく、使いやすさもある反面、吐き気など特有の副作用が出る場合がある。 |
胆汁酸トランスポーター阻害薬 | 体内で作られる天然の下剤成分「胆汁酸」の、回腸末端部での再吸収を阻害し、大腸内への流入量を増加させることで、下剤効果を発揮する。 | 体内で作られるものなので、耐性や依存性はない。若い女性では強い腹痛が出る場合がある。 |
高分子重合体 | 腸管内の水分調整を行う。過敏性腸症候群に対する薬剤で、便秘型だけではなく下痢症状を伴う交代性便通異常に対して処方される。 | 腹部の張りを軽減させる効果もある。 |
膨張性下剤 | 水分を吸して膨らみ、腸を刺激して排便を促す。 | 食物繊維と似た作用による排便促進効果。 |
市販の下剤の80%には刺激性下剤の成分が含まれています。刺激性下剤の特徴です。腸の神経を刺激して無理やり動かすので、スッキリ感を得やすい反面、使い続けると薬剤耐性によって同量の下剤では効果が得られなくなってしまうことや、精神的依存性が形成され、クセになってしまう場合があります。
刺激性下剤はお腹が張ってツラい時に、週2回以内を目安に「腸をリセット」する目的で使用するに留め、他の毎日連用しても身体に害のない薬剤へとシフトしていくことが重要です。
便秘治療においては生活習慣の改善と薬物療法を並行して行う必要があります。うまくいくと、最終的には薬が全く必要ない状態まで改善することもあります。
便秘解消には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維をバランスよく摂取することが重要です。不溶性食物繊維は便のカサを増やし、水溶性食物繊維は便に潤いを与えて排便を促します。両方をバランスよく含む食品としてはバナナやキウイフルーツが代表的です。
また、キウイフルーツは食物繊維の他に、アクチニジンと呼ばれる酵素によっても消化や胃腸の動きを促して便秘を改善する効果と、腹痛を減少させる効果が知られています。一方で、食物繊維の摂りすぎが、お腹の張りをかえって悪化させる場合もあるため、注意が必要です。
他にはオリーブオイルやナッツ類などの良質な油脂を摂取することも有効です。便の滑りが良くなり、便通が改善します。ナッツは塩分を含まない、素焼きのものを選びましょう。また油脂はカロリーが高いので過剰摂取には注意しましょう。
起床後や就寝前に白湯を飲むことをお勧めしています。胃腸を温め、水分を補給してあげることでスムーズな排便を促します。日中もこまめな水分摂取を心がけましょう。
便秘になると、おならの回数が増え、臭いもキツくなる場合があります。これは腸内に悪玉菌が増えることが原因です。他にも卵や肉など、動物性のタンパク質の過剰摂取はおならの原因となります。
ヨーグルトには善玉菌が多く含まれているため、一般的には便秘に良い影響を与えます。ただし、ヨーグルトは善玉菌以外にも乳成分を多く含むため、乳製品が合わない方は摂取を控えましょう。
野菜をたくさん食べることは、腸は動いているのに食物繊維の摂取量が不足しているタイプの便秘には有効ですが、腸の動きが悪い場合には逆効果になる場合があります。食物繊維を摂るとお腹が張る、という方は腸の動きが悪い可能性があるので、一度受診してご相談ください。
便秘の改善には1日約2リットル程度の水分摂取が理想的です。1回にガブガブ飲むのではなく、1〜2時間にコップ1杯程度の水分を小分けにして摂るのが良いでしょう。
カフェインを含む飲料は利尿作用があるため、脱水になるという説を唱える人がいますが、実際には飲んだ水分が全て出るわけではないので、脱水になることはありません。ただし、カフェインの過剰摂取とならないよう、コーヒーなら1日4杯程度までを目安にお召し上がりください。
朝は大腸が一番動く時間帯です。便意がなくても、トイレに行きとりあえずいきんでみる習慣をつけることで、便意を感じる力がついてきます。ただし、いきんでみてもでない場合は長時間粘ると逆効果ですので、諦めて撤退しましょう。朝忙しくてトイレに行けないという方は1時間〜30分程度、起床時間を早めて、ゆっくりとした朝を過ごする習慣をつけるのも有効です。
市販の下剤の80%には刺激性下剤の成分が含まれています。一時的な使用であれば問題ありませんが、長期的に使う場合は酸化マグネシウムや水酸化マグネシウムといった浸透圧性下剤を選ぶようにしましょう。それでも改善しない場合は自己判断せず、一度専門外来の受診をお勧めします。
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